中国が科学技術論文アウトプットで世界の首位に

筆者は中国の科学論文の質・量共に驚異的な発展を遂げていることを何度か、指摘して来た。つい最近筆者が加わった博士論文の審査会では、2名の博士課程終了の学生の論文リストにはそれぞれ高IF論文2-3報が含まれていた。もちろん筆頭著者ではない場合もあるがその学生が中心的な役割を果たしていることがほとんどである。ランキング上位にある中国の大学の研究レベルは高く、一昔前のコピー文化のイメージは過去の話なのである。

 

ついにその日がやって来た感が強いが(中国が世界の科学を牽引する日〜宇宙科学から加速器科学まで)、NSFの調査によると中国が科学技術論文アウトプットで米国を抜いて世界の首位についた(Tollefson, Nature online Jan. 18, 2018)。

1月18日に出版されたNSF報告書は米国が世界の頭脳を集め(注1)科学技術を牽引する立場に変わりはないとしつつも、科学技術に投資を惜しまず米国に迫るアウトプットを出していた中国がついに米国を抜いたことを認めた。(下図)

(注1)米国の科学技術の研究開発現場にはアジア系ポスドクを抜きにして成り立たない。こうした研究者が筆頭著者となったときには研究予算や論文出版予算の出どころは米国になるので、NSF調査が筆頭著者の国別にカウントするかどうかで、中国のアウトプットはさらに増大する。というのも研究場所でカウントされ、筆頭著者の出身国とはならないからである。

 

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Credit: Nature

 

進む米国の研究現場の空洞化

米国の独壇場であった科学技術アウトプットは、米国の空洞化(研究主体が国外からのポスドク)と中国を筆頭に先進国に追いつこうとする国々の水準が上がったことで、米国の優位性がなくなったことは米国が最も認めたくない事実である。

中国の2016年の論文数は426,000件でScopusデータベースの18.6%にあたる。米国の409,000件と大差をつけられた。ただしサイテーションでは米国はスエーデン、スイスに次いで3位でありEU、中国と続く。また米国の科学技術の博士課程修了者は世界最大数である。それでも2009年の25%から2014年では19%と下落傾向は否定できない。

米国のR&D予算は全世界の26%に相当する5000億ドル〜50兆円(2015年度)にもなるが中国は4000億ドルと肉薄している。しかし中国は増加傾向であるのに対して米国は飽和状態が続き、財政状態を反映していることが米国と中国の差が大きくなることが予想できる。

 

米国の研究所を訪れると気づくのはどこに行っても研究を支えているのが国外からのポスドクで、アジア系が多く欧州、ヒスパニックを合わせると米国人は少数になる。このことは米国社会で白人が少数になりつつある人種構成だけでは説明できない「空洞化」が進んでいることを物語っている。

先進国では科学技術が成長(イノベーション)牽引力であり日本もそれを信条として掲げて来たはずである。空洞化が進めば科学技術立国は過去のものとなる。「頭脳流出」が問題となったかつての日本も他人事ではない。図にあるようにインドに抜かれた。中国に抜かれた米国とインドに抜かれた日本。両者に共通しているものは何かを考えなくてはならない。かつて日本には「国を豊かにする唯一の希望は科学技術」という(教育だけではなく)一般的な社会認識があった。

 

中国に抜かれる米国とインドに抜かれる日本

それが神話を生んで経済成長の推進力となった。それを繰り返せというのは無理な話だが、ポスドクの処遇や賃金格差などの現実をみた学生たちが全力で取り組む気力を失っているとしたら勿体ない話である。中国やインドにも解決しなければならない問題は多いので、このまま優位性が持続するとも思えないが事実として認めなくてならないだろう。中国に限れば筆者の印象では得意な分野とそうでない分野がはっきりしていることで、例えばナノ科学は圧倒的に強みがある。細かく見れば科学技術論文のテーマ別では優劣がはっきりしているはずである。

 

これまで米国やそれに続く日本は全方位的な予算配分をして来たが、将来はメリハリをつけることが必要かもしれない。それにしても高IF論文への投稿が予算で抑制される現実と奨学金(返還)制度を含めたポスドク処遇を改善することで、アウトプットを短時間で増やすことができる。

日本の場合、論文経費の節約で高IF雑誌を避けることが少なく無い。中国では高IF論文への投稿は予算がないから控えるように、などということをいうグループリーダーはいない。高IF論文の投稿が完了した著者に文科省が論文費用を支援するだけで大きな効果がでるだろう。そのためには年度毎の剰余予算を無理に使い切らずに、基金にして繰越が可能な法令を整備すれば良い。

 

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