科学技術に必要なのは研究者の流動性か

2つの独立した研究チームが独立に科学技術の成果を上げるための因子を調べた結果、ほぼ同一の結論を得た。その結論は研究者が国境を超えて自由に移動できる環境こそが研究成果を上げる因子だという。研究チームの一つであるインデイアナ州立大学の研究(Wagner & Jonkers, Nature online Oct. 04, 2017)は、定住する研究者と国境を超えて移動する研究者らのサイテーションインデックスを比較した。もう一方の研究グループであるオハイオ州立大学とECの研究者らの同様な主張は同じ雑誌のコメント欄に掲載された。

 

常識的に考えて共同研究によって視野を広げて相補的な知見を組み合わせた方が独創的な成果が得られることはわかりきっている。今回の研究はそれを統計的に実証したと言える。

インデイアナ州立大学の研究グループは2008年から2015年に出版された1,400万の論文を執筆した1,600万人の研究者を対象に調査を行なった。その結果は著者の4%に相当する研究者が多国籍(流動性)が高く、流動性の高い研究者のサイテーションインデックスはそうでない研究者より40%高いという。

 

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Credit: Nature

 

また欧州と北米の研究者が流動性が高い、すなわち多国籍の研究者が多い。オハイオ州立大学の研究グループはこれと独立に2013年以降の250万の論文を調査し著者の流動性の統計をとった。その結果、研究者を受け入れる国(注1)ほど想像的な研究成果を上げていると結論づけた。

(注1)移民規制が厳しい米国は特殊技能者には特別な処遇を与えて、優秀な研究者の入国を容易にしている。米国の最強兵器H-1BとEB-5参照。

 

なおこの研究の結論には筆者は少し違和感を感じる。流動性が日本では本来の意味に解釈されていない節があるからである。流動性というのは組織間の移動がしやすいということであって、契約職員の雇用拡大や任期制の導入とは別次元の話である。現実には日本の雇用費総額は減っているのに研究者人口は増えているという(研究できない 日本科学の危機)。契約職員や任期付職員の枠が拡大された結果、研究人口が増えているから研究環境(人的資源)が改善されたとは言えない。任期制の弊害は任期後の職員採用や流動性が保証されない点にある。若い研究者が頑張って成果を上げても身分の保証がなされないのであれば、リスクの多い研究テーマを避けるようになる。ポスドク1万人という掛け声で奨学金制度で一気に増えた博士課程の進学者は、就職先がなければ過程終了と同時に債務者となる。

 

近年、日本の基礎科学の研究環境の悪化については多くの警告があり、数字(論文数)で見ても、衰退への道を辿っていることは明らかである。特にこれまで自由な研究が約束されてきた地方の国立大学は、法人化によって産業に直結したテーマを強いられ、競争的資金の獲得以外には研究資金の獲得が困難になっている。

 

このコラムでは科学技術立国を目指すには〜研究環境の変質によるリスクで危機を訴えたが、ほかにも検証記事(研究できない 日本科学の危機<自然科学論文数>日本4位に転落 中、独に抜かれる)からも、警鐘が現実となりつつあることがにて取れる。地方の国立大学の研究環境に恵まれなかったのは今に始まることではない。筆者は大学院時代を過ごした国立大学の共同利用研究機関で知ったのは、そのために大学共同利用があって、地方の若い研究者は高額な設備が整備された共同利用研究機関に足を運べば、先端機器を利用した高度な実験が開かれていたことである。共同利用研究機関では地方の国立大学では、あり得ないような消耗品費がついていた。それは地方からやってくる研究者が支障なく実験をしてもらうための配慮だった。

 

昨年のノーベル賞を受賞した大隅教授は現在の研究環境にかけているのは「自由な」研究テーマ設定ができない点にあるという。国立大学の研究者向けの競争的資金獲得に、「産業応用に直結した短期研究であること」というスクリーニングがなされているとしたら、基礎科学にとって危機的であることは間違いない。

大学の研究者の自由な研究を阻害する因子には、「競争的資金のスクリーニング」の他に、(自由な研究が行える)「共同利用研究機関の環境悪化」がある。老朽化した施設の整備怠れば、(競争的資金を持たない)国立大学の研究者の研究遂行に支障が出る。研究者の自由な研究テーマを尊重しなければ、一部の(重点課題)テーマを除いて科学技術の空洞化につながる。

 

 

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