欧州の科学技術を支えるCOST

EUは加盟国から「税金」を徴収し、EU独自の予算体系を持つ。欧州の産学官の研究者の連携で研究開発を活性化するためのCOST(European Cooperation Science and Technology)(http://www.cost.eu/about_cost)はEU予算の中でも過去45年というもっとも長期にわたるもので、欧州の研究開発基盤を支えてきた。

 

ERAの中での役割

COSTはERA(European Research Area)の整備を目指している。ERAはEU加盟国の研究者が国籍・性別に関係なく、国境を越えて連携し情報を共有するための環境整備を目的としている。欧州の資源を一体として運用し研究開発効率を上げるのが狙い。国際競争力の増強を目指すEUの科学技術振興政策で、COSTはその中の重要なプログラムである。ERAロードマップは2015年のEU議会で承認され、加盟国はこのプログラムを基盤として研究開発ウログラムを発足した。ERAの成果は報告書にまとめられている。

 

EUと重なるCOSTの理念

COSTの趣旨は科学技術が複雑化し、専門分野の境界を越えた異分野との連携が不可欠になっている現状を背景に、研究者(ヒューマンリソース)の連携(ネットワーク化)することで、研究のネックのブレークスルーを図るという理念である。

言語も慣習も異なる人種の多様性を越えた「ひとつの欧州」を目指すEUにおいてヒューマンリソースのネットワーク化は研究開発の効率化のみならず、EU維持に必要な求心力を持たせる事になり、資源を有効に活用して国際競争を上げるのに役立っている。

またCOSTは研究者にとってその国の科学技術予算に恵まれない場合でも、EU予算がセーフテイネットとして機能するので、このような「二重統治」は大型設備が整備される恩恵と同時に個人予算や雇用のセーフテイネットとして役立っている。COSTプログラム(COST Action)への応募は毎年9月初旬締め切りの公募制で、この時期になると欧州の研究者たちは一年で最も忙しい時期を迎える。

 

COSTに参加して

COSTは良い面と悪い面がある。まずは予算の規模が大きいのでやはり競争率が高く、非常に戦略を細かく立てていかねば受からない。その後は欧州中のネットワーク国と協調して、学会、スクールを開き、予算を使っていく。年に何度もそのようなものを開く。また、昨今の欧州のネットワークではWorking Group(WG)を幾つかタスクごとに作り頻繁にミーティングを開催する。また、MC meeting (Management Committee)を開き、各国の代表、WGの代表が集まり話し合いを何度も行う必要がある。

科学があまり盛んでいない国の参加も奨励される。ルクセンブルクなどは国家としては非常に裕福であるが、科学の面から言えば科学の発展、並びに科学への予算はその規模には釣り合っていない。またイスラエルも欧州の一員なので、そのような国や東欧をメンバーに入れ、科学先進国の会議や学会に参加させることも重要である。

 

ヒューマンネットワーク構築〜STSM

それ以外に重要なアクティビティーはSTSM(Short Time Scientific Mission)である。これは欧州内の国の間での人の移動を奨励するための資金であり、COST projectを獲得したプロジェクトで、数ヶ月ごとにcallをかけプロポーザルを書いて受かったものに、共同研究のための移動費用を援助するシステムである。Reimbursementではない。なので、自分の研究室からすでに旅費が払われていてもお小遣いとして受け取ることができるものである。基本的には博士、または博士卒業後4年以内のEarly Stage Researcher(ESR)に対して奨励するようにするのが欧州の方針である。特に女性の参加に対しては非常に厳しく言われるので、研究者たちは若い女性を常に探し回り、他の研究室を訪問するように口説いてまわらなくてはいけない。学振等ではDC1、DC2、PDなどを見ても男女の受かる比が欧州のように恣意的なアファーマティブアクションの影響を受けているようではなく、競争という意味では非常にシビアでその面ではフェアで驚かされる。

STSMでは平日5日間以上90日以内の出張先での滞在が許される。ESRの場合は180日まで許される。欧州は学部が3年、修士が2年であり、研究は修士の2年になってからである。なので欧州の修士は日本の卒研のようなものなので、ESRには含まれない。また、ドイツやスペインなどでは指導教官が博士を故意に3年で卒業させないようにし、5、6年囲い込み安い給料でポスドクの様に使い込むので、博士と言っても大分薹が立っているケースもある。ただし"自国民"の人権や労働環境に非常にうるさいフランスではそのケースではない。

この様にCOSTの特殊な点は欧州内での人の移動、教育のみに予算が付き、研究費は一切払われない。ただし、科学予算なので研究成果(Deliverable)を想定して書かなければコンペティションを勝ち抜くことはできないので、申し込みグループは研究予算もつかないのにたくさんの研究成果を約束せねばならず、受かった後の切りもりは非常に難しい。

途中経過の報告なども膨大であり、大変だが、このほぼ強制的な人的流動により最終的に知り合いの数が増え、学会などに呼んでもらうことも増えたりするので、直接的ではないが研究の推進に大きな寄与がある。ただあまりの事務作業の煩雑さに、皆一回やればもう十分、と口を揃えて言う。

 

 

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