Liイオンバッテリーの電極R&Dの最先端

Liイオンバッテリーの電極問題は最大の課題である。これまで多くの発火事故を引き起こす原因となってきた電極の脆弱性と、充放電サイクルの寿命はEVなど大型のバッテリー応用では深刻な問題である。EVや携帯に続いて、一般の電気製品への応用も拡大しテイルが小容量の応用では圧倒的なエネルギー密度で絶対的な地位を築いた。

 

再生可能エネルギーの蓄電応用では事情が少し異なる。再生可能エネルギーの比率を高めるためには大容量の蓄電技術が不可欠だが、大容量電力応用では伝区億問題がネックとなる。低コストの蓄電システムとしての潜在能力は、最初から認識されていたが、電極に形成されるデンドライト(樹枝状の突起)が、短絡や発熱などの問題を引き起こす致命的な問題があった。

次世代型Liイオンバッテリー(下図)は金属Liを電極とした構造が主流になると考えられている。

 

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Credit: mit.edu

有機電解質中のLi金属電極表面を充放電中、平坦に保つことが鍵となるため、世界中の企業や研究所が電極問題解決を目指して研究開発を継続した。その努力が実を結び、電極問題の解決への指針が得られつつある。ここでは代表的な電極問題のR&D現状を紹介する。

 

グラフェン酸化物による金属Li成長制御

Liイオンバッテリーでは電極間にセパレータ(電解質膜)がある。セパレータは多孔質高分子膜で電荷を運ぶキャリア(Liイオン)のみを通す。Liイオンの移動量を電子的に制御して成長速度を抑えられることがわかった。(Foroozan et al., Advanced Functional Materials online Feb. 07, 2018)。

 

ガラス繊維セパレータ表面にグラフェン酸化物を塗布した結果、成長速度を制御して金属Liの平坦化することができた。グラフェン面を持つセパレータをLiイオンが通り抜ける際、一旦Liイオンが薄膜を形成し、表面欠陥を移動しながら拡散することで、成長速度が抑えられて平坦なLi成長が可能となる。

下図(上段)に示すように電極のLi金属成長の平坦化によってバッテリー寿命が飛躍的に改善されていることがわかる。下段左は中間層へのLiイオンの吸着・脱離の模式図、右側はデンドリマー形成時(左)と平坦成長時(右)の構造を示す。

 

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Credit: Advanced Functional Materials

 

新しい正極材料の探索

研究ではスパコンを用いて時間の経過とともに電子移動を追跡し、原子レベルで観察する分子動力学シミュレーションが威力を発揮した(下図)。下図で(a)S/グラフェンセパレータ、(b)Li-S相互作用、(c)Li-S間の電荷分布を示す。

 

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Credit: Saul Perez Beltran, Perla B. Balbuena

 

硫黄は豊富な埋蔵量を背景に低コストであるばかりでなく、硫黄ベースの正極が実用化できれば、理論的には、従来のLiイオン電池に使用されているLi-Co -酸化物正極よりも10倍大きい貯蔵容量が可能となる。

しかしS原子の鎖を含むLiポリスルフィドが成長する問題がある。長鎖ポリスルフィドは、液体電解質に可溶性でLi金属負極に移動して分解し蓄電性能が著しく劣化する。一方、短鎖ポリスルフィドは不溶性で、Sベースの正極に残る。イリノイ大学の研究チームはスパコンを用いて、可溶性長鎖ポリスルフィドの形成がS/グラフェン複合材料で抑制できることを見出した。

 

電解質の改良

パシフィック・ノースウェスト国立研究所の研究チームは新しい高濃度電解質により、Liイオンバッテリーの充電量が7倍に向上し寿命が向上することを見出した(Chen et al., Advanced Materials online Mar. 25, 2018)。

充放電に際して反応性の高いLiが電極間を往復するLiイオンバッテリーでは電解質が電極を侵食しないことが鍵となる(上図)。研究チームはリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドをジメチル炭酸塩とビス(2,2,2-トリフルオロエチル)エーテル(1:2モル)の混合溶液に溶かした高濃度電解質を用いることで、充電容量が飛躍的に向上することを見出した。

 

高濃度電解質は粘性が高く導電性が低下する課題があったが、研究チームは高濃度電解質がクラスタ化として電極を損傷しないようにしてこの問題を解決した。高分子量の中性ポリマーの半希釈溶液からなる粘弾性電解質で電極を安定化することが知られている(Wei et al., Science Advances, 4, eaao6243, 2018)。

 

グラフェン酸化物の利用や電解質の改良で、Liイオンバッテリーのエネルギー密度と寿命が格段に向上したEVが登場する日が近い。現時点の蓄電技術で再生可能エネルギーの限界とすることは意味がないように思える。バッテリー研究でオペランド実験やスパコン利用の計算機シミュレーションが果たした役割は大きい。オペランド実験に強い放射光やスパコンの利用はルーチン化しつつある。これらの整備を適切なタイミングで継続することが再生可能エネルギー比率を高めるために不可欠となっている。

 

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