アンモニアが救世主となるクリーンエネルギー〜水素輸送媒体と燃料として

日本が推進する水素社会構想は現実的でないとする批判も渦巻くもののすでに他国のエネルギー政策にも影響を及ぼしている。オーストラリアが日本への水素輸出に有利な位置関係にあり、実際、オーストラリアのエネルギー輸出の1/3は日本向けである。オーストラリア政府は(日本への)水素輸出の将来性を見込んで、2,000万ドル(日本円で約24億円)を液体水素の輸出事業に支援することになった。

 

オーストラリア政府はしかし水素輸送を液体水素で行う考えはない。水素社会というと燃料電池ばかりが話題になるが、EVが発電まで考慮しないとゼロエミッションでないのと同様に、燃料電池が真にクリーンな電源となるには水素製造・輸送がゼロエミッションでなければならない。太陽エネルギー貯蔵の最終形が水素であるとしても、本格的な普及には意外な水素化合物、アンモニアが救世主となるかもしれない。というのも液体水素の製造から輸送に至るまで既存のアンモニアのインフラがそのまま使えるからだ。

 

水素輸送媒体としてのアンモニア

アンモニア(NH3)は1分子あたり3個の水素原子を有しており、水素密度が高いため単位体積あたりの水素含有量は液体水素より多い。また液体アンモニアの製造と輸送・販売チャネルはすでに確立しているので、既存のインフラがそのまま水素輸送に使える。既存のアンモニア製造と輸送インフラを利用すれば水素製造・輸送が容易になることのメリットは大きい(Chen et al., ScienceDirect 159, 9992, 2018)。

貯蔵されたアンモニアは分解して水素を発生するが残った窒素も再利用できるので貯蔵媒体として都合が良い。アンモニアの沸点は-33度Cなので液体水素より輸送時の効率は高い(コストが低い)。これまで水素社会構想に対する批判の多くが水素輸送の困難さにあったが、実際に液体アンモニアの海上・地上輸送しインフラが整備されている点でアンモニアを輸送媒体とすればこの批判は当たらない。

 

原発1基分に相当する1GWに迫る太陽エネルギー(光・熱)利用の大規模発電所が中東に建設されているが、大規模発電所は設置場所が都市部に近くないと意味がない。太陽光利用では有利な立地条件にあるオーストラリアだがエネルギー貯蔵という点では水素(アンモニア)を重要視するのはそのためである。

オーストラリア政府は自国に有利な太陽熱発電方式の一つである集光型太陽熱発電(Concentrated Solar Power(CSP))も視野に入れて、水素とアンモニアを利用した場合の水素発電の優位性を確認し、これらのうち製造・輸送面でメリットの大きいアンンモニアを水素社会への切り札と考えた。

 

劇物指定のアンモニアの輸送はすでに液体でタンクローリーで行われている。もちろん事故で流れ出せば周囲の影響は免れないが、安全な取り扱いは十分確立されているため、特に大事故が起きているわけではない。

 

直接燃料電池で発電

日本では戦略的イノベーションプログラムでアンモニアを直接燃料とした燃料電池が1kW発電に成功している。またNASAはすでに宇宙用としてアンモニア燃料電池の宇宙空間試験運用を開始している(下図)。

 

59 payload

Credit: NASA

 

水素社会の構築の過程で輸送媒体としてアンモニアを採用することは水素輸送の課題を解決することになるが、アンモニアをそのまま燃料とした発電が普及して最終的に水素社会はアンモニア社会と共存する可能性もある。またアンモニアから水素を製造する技術開発も進展、水素社会におけるアンモニアの積極的な役割が見直されている。

水素社会を目指す日本は先導的な立場にいるが、ゼロエミッションを迫る世界的な脱炭素の潮流の中で、主張と86%を超える火力依存の現実が矛盾するという厳しい批判に晒されている。アンモニア媒体で普及のスピードアップが可能ならインフラ構築のシナリオに若干の修正が必要かもしれない。

 

関連記事

再生可能エネルギー近未来像

再生可能エネルギー近未来像

燃料電池の理想と現実:水素社会の意味を考える

現実化しているエネルギー革命の第1章と第2章

メタンからCO2排出なしで水素製造に成功

 

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.