放射線治療の新しいガイドライン〜2次電子の散乱断面積決定

電離放射線が人体に照射されると細胞を構成する分子を電離(イオン化)し電子が飛び出した後には正イオンが残される。飛び出す電子には光電子やオージェ電子の他、雪崩現象で生成される大量の2次電子がある。カナダのシャーブルーク大学の研究グループは2次電子がDNAに与える影響を調べた結果、オンコロジストの説明に相反してDNAに大きな影響があることを明らかにした(Lemelin et al., J. of Chem. Phys. 147, 234305, 2017)。

 

これまで電子分子衝突に関する研究では孤立した分子への電子衝突実験が多かったが、この研究では生体を模した凝縮系で行われた。この結果をもとに放射線治療の放射線によるDNA損傷と放射線量の定量的な関係を算出することができる。

生体への放射線効果(DNA損傷)では低エネルギー2次電子は中心的な役割を果たすと考えられている。照射される放射線に比べてエネルギーは低いものの、DNA鎖切断の能力があり、しかも大量に放出される2次電子は大きな効果を持つが損傷のメカニズムはよくわかっていない。

DNA鎖切断は結果的にDNA変異や細胞のアポトーシスを引き起こす。これがオンコロジストのいう副作用であり「被曝」による効果そのものなのである。ちなみにオンコロジストのいう「副作用」の症状は概ね被曝の影響と重なる。研究グループは生体分子(DNAリン酸基)のモデルとして低温で固定されたジメチルリン酸(DMP)と低エネルギー電子(1-18eV)の衝突断面積を2-12eVのエネルギーに対して決定した。

 

1.5008486.figures.online.f4

Credit: J. of Chem. Phys.

 

実験で得られたDNA損傷と線量の定量関係を用いれば安全な放射線治療が可能となる。これによって新しい放射線治療(標的型核種放射線治療、TRT: targeted radionuclide therapy)のガイドラインが確立することになる。TRTでは放射性核種を患者の体内(癌腫瘍近傍)に注入し、発生する2次電子で癌細胞を標的とした放射線治療を行う。電子分子の衝突の散乱断面積としてこの「研究で得られた実験値を使用することで、不要な照射効果(被曝)を最小限に抑えることが可能になると期待されている。TRTでは核種を含む分子を標的分子と親和性を持たせることが難しい。しかし核種と標的の距離が近くなるため、定量的な線量決定が重要になる。

 

fmed 02 00012 g002

Credit: frontiersin

 

放射線治療(オンコロジー)の世界には「放射線被曝」という表現は存在しない。オンコロジストは放射線は多数回に分けて照射するので正常細胞には影響を与えず、癌細胞のみを狙い撃ちにするから、被曝の恐れはないと主張する。

その根拠は癌細胞は成長が早いためDNAが折りたたまれないアンフォールデイング状態の時間が長いので、放射線照射に弱い時間が正常細胞に比べて数倍高いこととされている。

しかし(若年であれば特に)正常細胞もDNAアンフォールデイング状態にあるから、これは統計的な話になり放射線障害は避けられないはずである。オンコロジストはそれでも放射線障害を被曝とは言わない。「副作用」として片付けられるが科学的に検証されていない。オンコロジーの「副作用」すなわち放射線被害は現代医学の中で置き去りにされた問題だった。欧米に比べて放射線治療の頻度が高い日本だが、線量とDNA損傷の定量関係を確立し安全性が向上することを期待したい。

 

関連記事

加速器治療の最前線−Part1 リニアック
癌完全治癒に向けてのオンコロジストのメッセージ
先端的放射線治療IGRT〜イメージングでピンポイント放射線照射

 

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.