MOF量子ふるいによる水素同位体分離

 

これまでの常識を覆す新同位体分離技術について記事をかいたばかりだが、今度は水素の同位体分離という夢のような技術を紹介したい。水素の同位体分離といえば注目されるのは、重水素(D)と三重水素(T)である。もちろんこれらは熱核反応兵器(水爆)の燃料であるが、一方では核融合反応の燃料として、諸刃の剣ではあるが、未来のエネルギー源となる可能性を秘めている。

 

このほかにも水素同位体は同位体トレース、中性子減速、中性子散乱の目的で不可欠の存在である。そのため物理化学的手法で水素同位体を分離することは切実な要求であったが、わずかな質量差で性質が酷似した同位体を分離しようとしてもこれまでの24Kの低温蒸留などに代表される試みでは分離効率(選択率〜1.5)が極めて低かった。

韓国のウルサンNISTの研究グループはMOF(注1)による新しい分離技術で77Kの選択率〜26という高い分離効率を得ることに成功した(Kim et al., J. Am. Chem. Soc. 139, 15135, 2017)。

(注1)Kitaura, R., Onoyama, G., Sakamoto, H., Matsuda, R., Noro, S.- I. & Kitagawa, S. Crystal engineering: immobilization of a metallo Schiff base into a microporous coordination polymer. Angew. Chem. Int. Ed. 43, 2684–2687 (2004).

 

ja 2017 079254 0005

Credit: J. Am. Chem. Soc

 

MOF-74は金属サイトの水素吸着エンタルピーが高いため、水素との親和性が高い。量子化学的には量子ふるい(Quantum Sieving)効果で親和力が強くなるので、この現象を利用した軽元素同位体分離技術の研究は世界各国の原子力研究機関で活発に行われている。

この研究はD/H混合(1:1)を使ったMOF量子ふるいで初めて実用化できる分離効率が得られたもので、今後D分離を低コストで実現するステップとなると期待されている。

 

ナノ科学で見直せば一昔前は不可能とされた技術がひとつひとつ可能になっていく。スケールダウンで量子効果を利用することが可能になるためである。そういう意味では21世紀は量子技術の世紀といえるのかもしれない。願わくは水素同位体分離が水爆製造にでなく、核融合、そのほかの平和的原子力利用に使われてほしい。

 

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