ナノ科学による新淡水化技術

水資源の枯渇や異常気象で乾燥地域の増大で、海水の淡水化技術への関心が高まっている。また中東諸国や開発途上国ではライフラインとしての淡水化プラントは今後の需要は増大すると予測されている。しかしアフリカの開発途上国では生活水の供給も不十分で、コンパクトで低コストの淡水化技術の登場が切望されている。

 

これまでの淡水化技術は逆浸透法と蒸発法(多段フラッシュ)で、どちらも日本が得意とする分野で中東への大規模淡水化プラントが輸出されてきた。これらはどちらも大規模プラントとなり大電力を必要とする。

マンチェスター大学の国立グラフェン研究所の研究グループは、数オングストローム(0.1nm)のスリットを持つ膜を開発した(Esfandiar et al., Science 358, 6362, 2017)。新しく開発された膜はグラフェン、六方窒化ボロン(hBN)、2硫化モリブデン(MoS2)からなり、穴のサイズより大きい直径のイオンを透過させる性質を持つ。

 

研究グループはこれより先に酸化グラフェンを元にした膜を開発し、海水の淡水化への応用も視野に入ってきた。研究グループは数μmの間隔で隔てられた100nm厚のグラファイトブロックの間を流れるイオンの挙動を調べた。2原子層グラフェンとMoS2単原子層膜でブロック間にスリットをつくった(下のイメージ)。ブロック同士はファンデアワールス力で支えられていて、スリットの長さは細胞膜の細穴(アクアポリン)と同程度である。

 

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Credit: Manchester University

 

スリット前後に電圧をかけたときにイオンは移動して、電流測定で電荷の移動量を推定することができた。詳細にみるとサイズの大きいイオンほど移動速度が遅いことがわかった。古典論ではスリットの寸法より大きい直径のイオンは透過できないはずだが、開発された膜ではイオンが伸縮するかのようにスリットを通過できる。

この研究結果は水溶液中のイオン半径が固有(不変)値であるとする古典論が正しくなく、イオン半径が可塑的であることを示している。新開発の2D膜でイオンをフイルターする高効率の淡水化に応用が期待される。

なお淡水化技術ではこのほかにも多孔質グラフェンNaイオンバッテリー技術を応用する新しい試み((Porada et al., Electrochimical Acta 255, 369, 2017))がある。確立した技術と考えられてきた淡水化技術はナノ科学で新たな展開をみせている。

 

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