生物的ナノ光触媒による水素製造

EVの急速な普及の結果、電力需要が追いつかないという予測が出ている。一方、水素を燃料とするFCVは水素供給インフラの整備に不安がある。水素はエネルギー貯蔵の観点から再生可能エネルギーのベース電源化に有望とされており、水素製造技術の模索が世界各国で始まっている。

  

DOE予算が投入されエネルギー科学分野の研究拠点のひとつとなっているアルゴンヌ国立研究所の研究グループは太陽エネルギーを用いて水分解により水素を製造する生物科学的なナノ光触媒を開発した(ACS Nano 11, 6739, 2017)。研究グループは光に敏感な蛋白質を資質二重層でできた細胞膜ナノデイスク(注1)に挿入して、(代表的な光触媒である)TiO2粒子と組み合わせた。

(注1)生物学的、医療目的に作成されたデイスク状の膜蛋白質ナノ構造。

 

理想的なクリーンエネルギー水素

水素は燃料電池の燃料で電力を発生した後、水が生成される。クリーンエネルギーであると同時に水分解で水素を製造するプロセスの逆反応であるためエネルギーを生み出した後は水に戻るというエネルギーサイクルで、地球環境保護にも優れている。しかし水素と酸素に分解する反応のエネルギー障壁のために、エネルギーが必要になる。太陽光と光触媒を用いる水分解は製造法の一つで、近年光触媒の研究開発が活発に行われている。

TiO2光触媒のエネルギー変換効率は2%と低く、色素増感など多くの改良がなされている。この研究でナノ粒子化と膜蛋白質(バクテリオロドプシン)(注2)との結合によって高性能化が達成できることがわかった。

(注2)光駆動プロトンポンプ機能を有する膜蛋白質。太陽光エネルギーにより細胞内のプロトンを細胞外に輸送する。

 

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Credit: ACS Nano

 

生物はプロトンでADPをATPに変換してエネルギーとしている。バクテリオロドプシンはプロトンを細胞外に輸送してエネルギー代謝活動を助けている。この研究では高度好塩菌(Halobacterium salinarum)のプロトンの輸送機能に注目して、プロトン輸送部分を生物学的なポンプに分担させた。

太陽光に敏感なバクテリオロドプシンは細胞外にプロトンを輸送し、TiO2ナノ粒子で生成される電子によって水素が発生する。この膜蛋白質は合成できるためスケールアップが可能である。TiO2ナノ粒子は安価に製造できるのでこれらを組み合わせた生物学的ナノ構造体の大量生産は難しくない。

 

製造法はTiO2粒子と膜蛋白質ナノデイスクを(TiO2の光触媒機能を増大させる)白金触媒とともに水溶液に浸す簡単な湿式プロセスである。

水素発生能力(ターンオーバー)は白色光照射下で17.74mmol H2(μmol蛋白質)-1であった。

 

光触媒や人工光合成のエネルギー変換効率は低いが、プロトン輸送など生物学的な機能と無機材料を複合したナノ科学は、それぞれ単独では解決できない課題のブレークスルーにつながるかもしれない。

日本は個々には研究能力が高い一方で、組織の壁が高く同じ研究組織内でも分野間の連携が容易ではない。研究分野の連携が容易になる仕組みを作るだけで研究ポテンシャルが高められるのではないだろうか。ナノ科学やエネルギー科学では広い知見を活用することが重要であることを、この研究は教えてくれる。

 

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Credit Nature

 

組織連携が成功した例については下記を参照。

Broad Instituteに込められたビジョンとは

 

 

 

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