火球のメカニズムが解明される〜プラズマ科学と加速器科学の意外な接点

火球とは雷雨の最中に目撃される球状の発光体で、そのメカニズムは謎に包まれていた。中国の浙江大学の研究グループによれば火球の正体は稲妻の発生による電磁波で形成されたプラズマ球であることがわかった(C. Wu, Sci. Reports online June 26, 2016)。

 

火球の目撃情報は時にUFOと間違われることもあるが、消滅する際に音がしない場合もあれば爆発音を伴う場合もあり、その正体と発生メカニズムは推測の域を出なかった。

研究グループは火球が高輝度の発光球体となるメカニズムは球状プラズマにマイクロ波が閉じ込められたために生じるとする理論を発表した(下図)。火球と聞けば肩透かしを食う印象だが、そのメカニズムが最先端のプラズマ科学、核融合と変わらないことに驚くのではないだろうか。

 

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Credit: Scientific Reports

 上の図(a)はマイクロ波がプラズマ球に閉じ込められるモデル、(b)は相対論的な電子のバンチの形成されるメカニズム、(c)電子のバンチから放出されるコヒレント遷移放射(注1)を模式的に示したもの、ここでγはローレンツ因子である。最近の研究では稲妻が地面に届く時に強力なX線が放出されることがわかっている。Runaway electrons(迷走電子)については別記事参照。

 

簡単に説明すると、まず落雷によって稲妻の先端が地面に衝突した時、相対論的な(速度の)電子の塊(加速器でいうバンチ)が生成される。その高速電子が強力なマイクロ波を励起、周囲の気体をイオン化する(プラズマ生成)。電磁波の圧力によって中心は真空状態となり、プラズマが吸い込まれると、プラズマ球が形成され、マイクロ波はその内側に閉じ込められたものが火球である。

(注1)CTR(Coherent Transition Radiation )と呼ばれる短バンチ電子ビームから放射されるコヒーレントな放射光。ERLによるコヒレント放射光が可能であるため、加速器科学では「理想的な光源」として注目を集めている。そのほかCTRを利用したバンチ間距離の精密測定や超短パルス電子ビームの観測など、加速器科学ではビーム診断に広く使われている。

 

下図はこのメカニズムによるマイクロ波捕獲のシミュレーションで、発生から11ナノ秒でマイクロ波の閉じ込めとプラズマ球の形成が起きる。ここでE(|Ex|)は電場、Bは磁場、ne、niはそれぞれ電子密度、イオン密度である。

火球のメカニズムはこの研究でUFO議論とは縁遠い、プラズマ科学の先端にある現象で説明できることがわかった。このことは実験でも火球の再現とこの理論の検証ができることを示唆している。 

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Credit: Scientific Reports

 

夏の雷にはプラズマ科学と加速器科学(レーザー科学)の物理が潜んでいたことは興味深い。雷雨でも火球が観測されるのは稀であるが、その場に出くわしたら自然界のプラズマ科学・加速器科学であるこのメカニズムを思い出して欲しい。なお落雷には十分注意することは言うまでもない。またこの研究によれば同時に強力なX線が発生していることもお忘れなく。

 

 

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