新技術で加速する太陽放射利用

最近、バッテリー技術の進展がめざましい中で、太陽電池にも大きな革新の波が押し寄せている。エネルギー技術の研究開発の速度は遅かった印象だが、技術の進展はインキュベーションを過ぎると、指数関数的に発展することは珍しくない。先導するシード技術のスケールアップのコストの壁を越えられるときに潮流ができるが、その兆候が見られる。ここではそれらの一部を簡単に紹介するにとどめる。

 

発電コスト7円/kWhの実現へ

発電コストが原子力発電の最大の謳い文句であった。このほど神戸大学工学研究科の喜多隆教授らの研究グループは、新しい太陽電池セル構造を提案し、従来セルを透過して損失となっていた波長の長い太陽光のスペクトル成分を吸収して変換効率を50%以上まで引き上げることができる技術を開発したと発表した。

この技術の本質はこれまで太陽電池研究に携わる研究者が熱エネルギーは(太陽電池セルの動作特性と寿命を考えると)スルーした方が得だと考えていたことのアンチテーゼである。一昔前まで郊外の一軒家の屋根に置かれていたのは熱交換器だった。太陽熱の利用は古くから可視光とは区別されていたのである。

新しい概念のアップコンバージョンについては最新の論文(Nature Comm. 14962 (2017))を別記事に取り上げるが、バンドギャップ以下のエネルギーの太陽放射を効果的に取り込む界面エンジニアリングである。

 

光で充電できるLiイオンバッテリー

太陽電池を利用して蓄電するには3つのデバイスが必要となる。太陽電池モジュール、コンデイショナー、そしてバッテリー。AC電源として利用するのにはさらにコンバーターが必要になる。一般の電気器具として個別に販売されているこれらを組み合わせるのは、面倒臭いし結局、全体のコスト高となる。

しかし太陽電池に蓄電機能が直結したらどうだろうか。あるいは現時点でエネルギー密度で広く使われているLiイオンバッテリーを太陽に向けて充電できたらどうだろうか。

カナダの電力会社の研究グループはLi金属を負極材料として、Liリン酸化合物を用いたLiイオンバッテリーに色素増感で増強された正孔で脱Liを行い、負極の還元反応を行う光充電Liイオンバッテリーの実証実験に成功した(Nature Commun. 14643(2017))。

まだ変換効率が1%以下なので実用研究開発の途上にある技術だが、材料開発と最適化が進めば少なくとも携帯端末を外に持ち出しても、電源探しに苦労したり災害の停電で途方に暮れることはなくなる時代がやがて来るだろう。

 

2分間で70%充電できるLiイオンバッテリー

Liイオンバッテリーの弱点の一つが充電時間の長さである。EVの場合、急速充電で70%充電に最低30分かかる。お茶でも飲めば良い時間だというが緊急時に30分待つのはできないと思う人が多いのではないだろうか。

シンガポールのナンヤン工業大学の研究グループはわずか2分で70%充電が可能なLiイオンバッテリーを開発した。Liイオンバッテリーの標準的な負極材料は炭素系でグラファイトが多く使われる。この負極材料の充放電による構造変化がLiイオンバッテリーの特性を決定づける。研究チームはそこでインターカレート負極材料として40ミクロ径のチタン酸化物ナノチューブを用いることで充放電サイクルに対する安定性を実現した。

このナノチューブの表面積密度は130m2/gとなり、8.5A、2分で70%充電が可能となった(Advanced Mater. 26 6046 (2014))。

 

Liイオンバッテリーを置き換えるかデュアル・カーボン・バッテリー

日本発の新技術デュアル・カーボン・バッテリーについては別記事に書いた。パワー・ジャパン・プラスという企業が九州大学と共同で開発したデュアル・カーボン・バッテリー(DCB)は正極と負極の両方がカーボン素材でできていることからこの名前がついた。DCBはLiイオンパッテリーと同じエネルギー密度を持ちながら遥かに安全で容量の時間変化が少ない。

この研究もLiイオンバッテリーの弱点が負極にあることから始まったが、炭素系を使いながらインターヵレートを回避する原理で成功した。

 

太陽放射でエネルギー需要が満たされる時代へ

他にもスペースの都合でエネルギー科学技術の進展を紹介できないが、確実に進展のスピード感が高くなった。こうした要素技術の積み重ねで人類が地球に降り注ぐ太陽放射でエネルギー自給体制が整う未来が現実的になっている。加速度的な発展にはナノ科学技術とそれを支えるナノ分析ツールの発展があったのではないだろうか。

 

古代エジプトの主神は太陽神ラーである。古代人は農耕でも狩猟でも自分たちの生活が太陽に依存していると確信していたのだろう。人類は試行錯誤の末に原点に戻りつつあるのかもしれない。

 

 

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