現実化しているエネルギー革命の第1章と第2章

エネルギー革命というとSFや次の世紀の話だと考える人が多いかもしれない。しかし考えてもいなかった速度で実はエネルギー革命が起きつつある。ここでは2つの側面を上げてどのくらい身近にあるのか考察する。

 

第1章 Liイオンバッテリー蓄電システム

安定性が売り物の原子力に代わって再生可能エネルギーを分散して電力網に取り込むためには、蓄電システムの普及が必要不可欠である。NEDOの開発プロジェクトを始め蓄電システムの開発も弾みがついてはいるものの、結局ネックとなるのはバッテリー価格になるため本格的な導入は「必要性が高いにもかかわらずペースが極めて遅い。

そのバッテリー価格に異変が生じている。テスラEVは日産リーフのようなエコカーのイメージではなく、スーパーカーの動力性能を簡単に手に入れられる魅力が若い世代を魅了して、急成長を遂げている。そのテスラ社がパナソニックと共同出資でネヴァダ州のインセンテイブを加えて、Liイオンバッテリーのギガファクトリーを建設中である。

37万台のEVバックオーダーを抱えるテスラ社だがこの巨大な工場のLiイオンバッテリーの供給能力は年間50万台を超えるので、ギガファクトリーは自社EVだけでは供給過剰となる。世界のLiイオンバッテリ生産量は急成長して2014年で価格が半分にまで落ちた。こうなると蓄電システムの実用化が進み、カリフォルニア州には80MWhの能力をもつテスラ・エナジー社の蓄電システムが建設された。

写真はカウイ島に建設された蓄電システムのイメージ。多くの太陽光発電の場合、発電量に整合した蓄電池システムの柔軟な設計は対応コストがかかるが、テスラ・エナジー社のモジュールは拡張次第でいくらでも増やせるし、家庭用でも対応できる。また拡張は簡単にネットで行えるので余計なコストがかからない。

 
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Credit: Tesla Energy

再生可能エネルギーの負荷シフト対応性の弱さが100MWhクラスの蓄電システム解消されると、1GWの原発を中心とした電力網を再生可能エネルギーの電力網に置き換えることができる。蓄電システムでエネルギーを貯蔵することで再生可能エネルギーのベース電源化が最も身近なエネルギー革命の第1章と考えられる。

なお現時点ではLiイオンバッテリーが最も高性能であることは明らかだが、価格と採算性の点で公共用蓄電システムでも200kWh程度であった。しかしバッテリー価格が半分の100MWhクラスが整備されるようになると、再生可能エネルギーのベース電源化が現実的になった。80MWhの蓄電システムの工期はモジュールの拡張なので94日で完了するという。こうなると大規模な蓄電システムのイメージが根本的に覆る。日本ではまだベース電源としての不適格を主張する人が大半であるが、現実にエネルギー革命の第1章は始まっているのである。

 

このきっかけを作ったのはPCを念頭に開発したパナソニックのLiイオンバッテリー技術であるが、EV転用で成功したテスラ社によって世界全体の生産量を超えるギガファクトリーで蓄電システムにも本格普及の道筋ができた。技術は進歩していくのでタイミングよく使わなければ宝の持ち腐れである。

 

第2章 核融合

エネルギー革命第2章は核融合の実用化である。最も実用化に近いとされるトカマク方式は巨大なITERがフランスに建設中で、日本も10年間に渡り年間5,000億円以上の経費を投じている。ここまで誰もITERが実用化の最先端にあると思い込んできたが、そうでもない。

そもそもITERクラスの核融合炉でなければ実用炉にならないのなら原子炉を上回る巨大な施設を整備していくのは財政的に不可能であり、核融合の実用化は難しいと言わざるを得ない。トカマク・エナジー社によればトカマク炉の実用化の最大の障壁はスケーリング則で大きくないと実用炉は難しいという考え方であるという。彼らはSmaller、Faster、Cheaperという方針で実用炉は高磁場発生に都合の良い小型炉こそ実用化への最短距離であるとしている。

しかし最近、トカマクのスケーリングメリットがない、すなわち小型でも実用炉が可能であることを示唆する論文が発表されるとコンパクト実用炉の現実味を帯びることとなった。もともと米国や英国ではコンパクト実用炉の市販化を目指す企業が相次いで起業し、積極的に開発を進めている。その中の一つである英国のトカマク・エナジー社(注1)は2030年に実用化を目指している。つまりITERを待たずにあと13年後に核融合炉が電力網に加わることになる。これがエネルギー革命第2章である。

(注1)2009年に球型トカマク核融合炉の開発・設計を行う企業として設立され、2012年からパイロットプラントの製造を目指している。トカマク・エナジー社は世界有数の核融合研究所(Culham Laboratory)の研究者12名を中心としたスピンオフ企業である。ITERの100分の1となるコンパクトな球型トカマク炉(下の写真)の鍵となるのは高温超伝導磁石である プラズマ中心の直径は1.7mである。なお世界で初めて超伝導磁石を用いたトカマクろは中国のEASTである。

 

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Credit: Tokamak Energy

 

トカマク・エナジー社はプロトタイプ核融合実用炉の運転を2017年春に予定しており10年で市販するとしている。ITERの試運転は2050年でありまだまだ先で、しかも運転されても発電能力はない。トカマク・エナジー社が開発しているのは球型トカマクというコンパクト化が可能な方式で、高温プラズマを保持するための超伝導磁石がポイントである。

トカマク・エナジー社はITERのような世界唯一のプロジェクトにはリスクが高いとしている。技術は日進月歩で進歩しており、目標を定めても複数のアプローチがあり得る。それらを競合させることで最良の選択肢となることを忘れて突き進むことはこれまでの原子炉開発にも言えるかもしれない。

 

トカマク・エナジー社は一連のプロトタイプを開発してきたが、ST40(上の写真)はCu系高温超伝磁石を採用し液体窒素温度で動作させて、プラズマ温度1億度を目指している。球型プラズマの中心には24分割されたセンターコラムとソレノイドを有している。鍵となるコアの設計には先行したST25の技術が使われている。トカマク・エナジー社のレビューパネルには世界の主要なトカマク研究者が参加している。

 

エネルギー革命へのアプローチに共通するもの

テスラ社が築きつつあるエネルギー革命第1章もトカマク・エナジー社が先陣を切る第2章も、従来の考え方の殻を破る新しい発想を起業に結びつけるリーダーシップと、緻密に計算されたシナリオで投資を呼び込むことが共通点である。日本にも潜在的な技術は眠っている。それらを活用するためのシナリオと投資を呼び込むスキルが鍵となる。ぜひエネルギー革命の第3章が日本で開かれることを期待したい。

ここで紹介したエネルギー革命は100MWが単位となるが、電力網の中心に1GWの原発を置く旧来のスター型電力網より、100MWの発電設備(再生可能エネルギーの場合は蓄電システム)の分散配置の方が効率が良くまたリスクも環境負荷も少ない。

第3章とは何か。例えば太陽エネルギーで水素を製造し、燃料電池で電力に変える技術、すなわち太陽エネルギーを水素として貯蔵し燃料電池で取り出す水素社会を100%自然エネルギーで実現することである。燃料電池でクリーンエネルギーが得られても水素製造に大量の火力や原子力を使うなら本末転倒である。第3章以降のエネルギー革命がどのようなものになるか想像できないが公平に与えられている自然エネルギー利用でエネルギー格差がなくなれば今よりはるかに平和で快適な世界になるであろう。

 

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