原子力の経済学〜安いのか高いのか

福島第一原発の廃炉や賠償に加えて原発全般の廃炉の費用として、電力使用料金に上乗せする形で、利用者から徴収することになった。標準家庭では毎月60円から180円の値上げが想定される。大規模な事故は除くとしても廃炉とバックエンドの新たな費用が発生することを含めると、「原子力はコストが低い」という認識が一気に色褪せた。

 

原子力の電力コスト 

原子力が安い電力を提供しているのかどうかも知りたいところだが、IEA-NEAのNuclear Energy Roadmap 2015によれば、中国の原子力の初期投資電力コスト(3,500米ドル/kw、日本円にしてkW単価約35.7万円)はEUの1/3以下(5,500米ドル/kW)であることがわかった。米国の電気料金はEUより10%低いがそれでも中国に比べると30%高い。

予測では2050年のEU、米国の原子力の電力コストは低下し韓国並みになるとされているがアジアの電力コストは変化しないとされる。中国の低い電力コストには原子炉建設ラッシュが効いている。標準的な1000MWeクラスの原子炉を一箇所に2基建設すれば、1基の場合より平均の電力コストが15%低下すると言われている。

 

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Credit: Nuclear Energy Roadmap 2015

 

原子力の経済性展望 

原子力の経済性展望についてのシカゴ大学の報告書では、1000MWe原子炉建設単価が、既存の原子炉(量産型)では1,200米ドル/kWであるのに対して、シリーズ1号機の開発コストが含まれる原子炉建設では1,500米ドル/kW、最新型では1,800米ドル/kWとなる。

報告書ではリードタイム5年、複数建設での習熟効果3%を見込んだ建設単価1200-1500米ドル/kWで発電原価は44米ドル/MWhとなり、石炭火力、ガス火力に対して原子力が経済性で優位に立つことができるとしているが、大前提は政策支援を講じることである。政策支援を必要としないのは1号機以降で習熟効果及び量産効果が確保されてからである。

報告書を要約すると「原子炉の1号機建設には政策支援が必須であり、火力に対する競争力を得るには同型原子炉を複数基つくることが必要」となる。

上記のシカゴ大の報告書(2004年)と2015年のIEA評価による初期投資には開きがある。OECD-NEAの評価でも原子炉建設の建設コストは1990年代には1,900米ドル/kWeであったのが2009年には3,850米ドル/kWeに跳ね上がっている(注1)。(国によってばらつきがある。韓国では2021米ドル/kWe、ハンガリーでは6215米ドル/kWe)

(注1)米国の建設コストは1960年代には1,500米ドル/kWeであったのが1970年代には4,000米ドル/kWeとなった。現在は新型炉建設コストは5339米ドル/kWeであり、これが採算性の観点から米国で新規原子炉建設が進まない理由である。原子力の経済性(建設コスト)に関する最新の論文では、これまでの建設コストの資料が米国とフランスの2カ国に限られていたことを指摘している。過去に建設された原子炉の58%に当たる資料を調べた結果、建設コストの顕著な増加傾向は米国の場合に限られるとしている。

 

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Credit: Nuclear Energy Roadmap 2015

 

コスト算出に抜け落ちているバックエンドと事故補償リスク

フインランドの場合のエネルギー種別の発電コスト比較では見かけ上は原子力の低コスト性が際立つが、建設コスト以外は燃料購入と運転・メンテコストのみでバックエンドも廃炉コストも含まれていない。電力コストにこれらの必要経費を含めると(火力におけるCO2排出バーターと同様に)発電コストが上昇することは避けられない。

原子力は「安いのか、高いのか」は簡単に決着がつく問題でない。国別に建設コストには開きがあること、米国をはじめとする原子力先進国でのコスト高騰、バックエンドと事故補償リスクが考慮されていないことなど、多くの問題を頭に置く必要があるだろう。仮に事故補償リスクには事故発生の確率がゼロに近いことで無視できるとしても、バックエンドコストは重くのしかかる問題で無視することはできない。

 

 世界の原子炉の稼働状況

下の図はNEA調べによる世界の原子炉の建設と閉鎖の変化である。1975-85年の世界的な原子炉建設ラッシュはチェルノブイリ事故以後に終焉を迎えた。その後の建設ペースは低く、現在はこの時代に建設された原子炉は30-40年を経過した老朽機となっている。

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Credit: NEA

この図から先進国の原子力による発電が2000年代に入って減少傾向が続いている理由は、新規建設が老朽化による閉鎖を上回ることができていないためと考えられる。少なくとも先進国での原子炉建設の遅れは初期投資の財源不足が影響している。米国、フランス、英国の場合がそうである。英国のヒンクリーポイントの原子炉建設の経費2兆4000億円はフランスの国営電力会社EDFと中国が出資して、ようやく開始となることとなった。今後は廃炉とバックエンドを含めた電力料金の正確な評価が必要となるだろう。

 

原子力発電コストの公的指針

総合資源エネルギー調査会発電コスト検証ワーキンググループ資料では以下のようにコストの内訳を評価した。 1200MW、稼働りつ70%、稼働年数40年を想定した原子力発電コスト8.9円/kWhの内訳は

 

事故リスク対応〜0.5円

政策経費〜1.1円

核燃料サイクル費用〜1.4円

追加安全対策費〜0.2円

運転維持費〜3.1円

資本費〜2.5円

 

ここで核燃料サイクル費用には使用済み核燃料の半分を20年貯蔵して再処理し、残りは45年貯蔵後に再処理を仮定。フロントエンド0.84円、再処理費用0.46円、中間貯蔵0.05円、高レベル廃棄物処分0.04円が含まれる。事故リスク対応費用には福島原発じこの対応費用が含まれる。

 

なお原発事故を起こした電力会社などの賠償責任に上限を設けて、超えた分は税金や電気料金などの国民負担で補填する「有限責任」案が政府部内で検討されている。もんじゅ予算は上記の中に含まれていたが、このことで今後は事故リスク対応の上乗せが進む無ことのようだ。問題はバックエンンドは10万年にわたって未来世代に「負の遺産」として、引き継がれ負担が強いられるであろう。そこまで含めると「安いのか、高いのか」についてはっきりしてくる。

 

 

 

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