高速増殖炉は何故うまくいかないのか

我が国では高速増殖炉は「核燃料サイクル」の根幹を支える守護神であったため1兆円をつぎ込んでも稼動のめどが立たない「もんじゅ」を1日あたり5,000万円で維持し続けている。

  

世界の高速増殖炉

高速増殖炉は世界各国(米国、英国、フランス、ドイツ)(注1)で研究開発が進められてきたが、原型炉、実証炉、実用炉(発電炉)という3段階で発電を行う最終形態までこぎつけたものがないわけではないが、総じて事故と停止の繰り返しの連続で、費用対効果比から言えば明らかな「失敗」の歴史であった。

(注1)他にもロシア、中国、インドで高速増殖炉研究開発は重点項目として積極的に進められている。特に中国、インドはトリウム溶融塩炉で核燃料サイクル実現に向けて積極的に取り組んでいる。原子力利用先進国が放棄しつつある中で原子力新興国が高度な技術を要する高速増殖炉開発に余念がない。研究開発を継続できる背景には新興国の特権である旺盛なエネルギー需要と成長経済があった。

 

原子炉が期待通りに動かないケースは、大まかに3つの因子が単独あるいは複雑に絡み合って起こる。一つは技術的要因、次に(住民の意思も含めた)政治的要因(注2)、そして(これらが解決されたとしても、)採算性が立ちはだかる。米国は1994年に高速増殖炉を中心に据えた「核燃料サイクル」そのものの開発を中止した。採算性が見込めないことのほかに米国の慢性的な財政難が背景にある。

(注2)高速増殖炉への住民の反対位運動が顕著であったのはドイツで原型炉が完成しても燃料挿入前に廃炉となった。

 

高速増殖炉の技術的な問題

ここでは技術的要因に話を絞り基本的な問題をあらためて整理してみたい。まず高速増殖炉の特徴は冷却に溶融金属(金属ナトリウム)が使われること、燃料にMOX(ウラン・プルトニウム混合)燃料が用いられる。

冷却に溶融金属を使用する理由は高速中性子を減速しないように軽水の代わりに液体金属を用いるためである。反応性の高いナトリウムは危険性が高いと思われがちで事実、配管を腐食させて空気中に漏れて発火する事故が多かった。技術的には溶融金属を封入してエンジン冷却に使われているし、冷却系が停止しても(温度差による)自然循環と空冷によって冷却作用が継続するという安全性も原理的には保証されていた。このためナトリウム冷却高速増殖炉は第4世代原子炉と考えられてきた。

 

なお軽水炉以外にフッ化物ウランなどのフッ化物塩を熔融して1次冷却材とした溶融塩炉は米国で軍事用(航空機)を始め、オークリッジ国立研究所で研究開発が進められたが実用に至らなかった(注3)。しかし最近ではインド、中国がトリウムを溶融塩に溶かして燃料とする高速増殖炉の開発を進めている。

トリウム溶融塩炉はプルトニウム発生量が少ないため核兵器転用の恐れが少ないため新興国への導入が望まれるものの、溶融塩配管の耐食性については溶融ナトリウム炉同様の危険性を持つ。

(注3)米国は1994年に高速増殖炉の開発と核燃料サイクルの推進を中止したが、最近では小型原子炉の開発が脚光を浴びている。2016年4月にエネルギー省が高温ガス炉と溶融塩炉の開発にそれぞれ50億円を政府が投入することを決めた。

 

高速増殖炉では1次、2次冷却系に使われる溶融ナトリウムと空気の反応、配管系の腐食が問題となるほか、3次冷却系の水との反応を抑制する必要が生じる。「もんじゅ」のナトリウム漏えい事故の原因はフローモニターの設計ミスによるものであった。溶融塩の流れを止められないため原子炉の停止期間中にも維持コストが発生する。

再運転するには、新規制基準に適合させるための工事費用を含め、多ければ8千億円ほどかかる。9月21日にこの問題で原子力関係閣僚会議を開き、廃炉も含めた今後の高速炉開発の進め方の検討を始めるとされるが、現実的には高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉へ向けた最終調整に入った(朝日新聞デジタル)。

MOX燃料の使用に関する問題点は(多少の誇張はあるが)資料に詳しく述べられている。詳細は省くが燃料として実績のあるウランに比べると、安全性に関する研究やデータが圧倒的に不足しているというべきだろう。

 

高速増殖炉の研究は続く

今後、高速増殖炉の研究を継続するのであれば、溶融ナトリウム冷却系とMOX燃料の安全性に関する研究開発を継続させる必要がある。MOX燃料といえども廃棄物処理問題がなくなるわけではないので、新基準への対応はもちろん、上記の2項目に加えて、廃棄物処理の研究開発を並行して進めることが義務となる。残念ながら財政難を抱える先進国にはもはやその余裕がない。新興国の研究展開が中心となるだろう。下の図はインドにおける高速増殖炉計画

 

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Credit: P. Puthiya et al., 6th Nuclear Energy Conclave, New Delhi, Oct. 14, 2014 

 

「もんじゅ」廃炉への方向は定まったようだが、「核燃料サイクル」は堅持することに変わりはない。工程表を作り高速増殖炉開発も継続するというが、上に示すようにインドでは段階を踏んで難関に挑む。もんじゅは原型炉というには規模が大きすぎたのではないか。着実にステップを踏む態度を技術神話を信じて怠ったとすればそれは日本のおごりでしかない。インドも中国も相当な実力をつけている。フランスのASTRID(Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration)(下図)と協力して開発研究も継続するとしているが、今更耳が痛い気がする。もっと早い決断が必要だった。

 

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Credit: ONET

基本的な問題が解決されていないので、今後の展開においても技術的な問題は山積みであると思わなくてはならない。開発資金繰りにも限度があるが、着実な進展があればそれでも賛同を得られるだろうから、開発事業の透明性が鍵となるだろう。また米国もフランスも開発の主体が国から民間に移っている事実に目を向けるべきではないだろうか。今やロケットは民間企業が打ち上げ、小型原子炉開発も民間企業が中心になっている。本当の問題、「何故高速増殖炉はうまくいかないのか」、は結局、事業体の構造が時代に合わないことにあるのではないだろうか。

  

ASTRID とは

ASTRIDは2020年に実験炉(実証炉)建設が予定されていて2040年には600MW実用炉建設にこぎつける予定の第4世代原子炉プロトタイプである。多国籍企業が参加するASTRID事業体は以下の分担で進められている。使用済み核燃料中のアクチノイド元素を短寿命の核種に変換するなど新機軸が盛り込まれている。

Alstom: Energy conversion system
Amec: Cooperation
Areva: Steam supply, auxiliaries, instrumentation and control
Bouygues: Civil engineering
CEA: Project control, overall architecture, core and fuel design
Coméx Nucleaire: Robotics and handling
EDF: Project management, sharing operating experience
Jacobs France: Common resources and infrastructure
Rolls-Royce: Cooperation
Toshiba: Large electromagnetic pumps

 

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コメント  

 
# 地元っこ 2016年09月22日 07:57
止める決断て続けることより難し い。計画を責任を持って成し遂げ るためにはリーダーシップが必要 だが、人の任期もあるので世代交 代を考えて長期計画を作るべきで す。
 
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