欧州型原子炉(EPR)の建設が遅れる理由〜初期型の宿命

 EPRといえばアレヴァ社が威信をかけて設計した最新型の加圧水型炉PWR(注1)で、考えられる全ての安全対策が施され、極めて高度な最先端原子炉である。EPRは発電能力が1600MWで、その先進性が最新型原子炉である第3世代のさらにさきにあるとして第3.5世代と呼ばれる。

 

何故、先進国だけEPR建設が軒並み遅れるのか

(注1)加圧水型原子炉(PWR)は炉心冷却系で直接タービンを回さない。すなわち熱交換器を使って熱出力を取り出すため炉心と発電システムを分離できるので、建物周辺の放射能汚染リスクが低い。

もともとPWRではこの点で沸騰水型原子炉(BWR)より安全とされるが、EPRではさらに炉心冷却の安全性が高められている。(注2)安全設計が何重にも施されたこと(Redundancyの強化)で世界で最も安全な原子炉とされている。先進国(フランス、フインランド、英国)の建設主体はアレヴァ社とシーメンスの共同体アレヴァNPである。

(注2)原子炉停止後の非常用冷却システムが4重になっている。また9/11以降、航空機テロに備えるため建物が航空機衝突の衝撃に耐えられる設計が要求されるがこの基準をクリアした建物となっている。さらに炉心がメルトダウンした場合にも燃料が取り出せる構造になっている。

 

安全性を高めた代償として設計が複雑化し、材料も高品位のものが要求された結果、建設コストも高騰したため、先進国では建設が軒並み大幅に遅れている(これらをここでは初期型EPRと呼ぶことにする)。

フインランド、オルキオトに設置されるEPR1号機建設は2005年に開始されたので今年で11年目である。またフランス、フラマンヴイルのEPR2号機は2007年建設開始で9年目になる。(注3)

(注3)未完成で10年以上も経過すると、設計担当者も配置転換や退職により詳しい知識を持つ技術者や熟練作業員が四散し、部品も設計仕様のものが手に入らなくなる。複雑な装置では各部が整合するように全体で最適化されているため、部分的な設計変更はその部分にとどまらず全体に波及する。そのため局所的な変更によって全体の設計変更につながる。設計時の技術者がいなくなるとその作業効率が悪化して再設計の時間と労力が増大していく。

 

先進国としては三番目になる英国のヒンクリー・ポイントにはEPR3号機、4号機の2基が建設される計画であった。しかし2基分で3兆3千億円の初期投資が困難となり、事実上建設は暗礁に乗り上げた。習近平が英国を訪問しトップセールスで中国の国営企業が建設費の1/3を融資することで、建設開始にこぎつけた。(注4)

(注4)しかし中国国営企業にスパイ容疑が発覚したため、英国の安全保障上に懸念があるとして、メイ政権は見直しも辞さない姿勢を示している。ヒンクリーポイントの原子炉建設には東芝・ウエスチングハウスや日立・GEなど有力原子炉メーカー連合も売り込みをかけており、新政権が有利な条件での入札仕切り直しを狙っている可能性もある。

 

EPR建設費の高騰の理由

何故EPR建設コストが急激に増大したかを簡単に説明すると設計が複雑化したため、①途中で様々な追加仕様が加えられたことによる。さらに②高品位材料が求められたこと、③制御・安全系のソフトウエアの複雑化に原因がある。例えばフインランドのEPR1号機の完成度は土木工事73%、工学系80%とされるが、それでも4億ユーロの追加費用が計上された。これに加えて最近発覚した原子炉格納容器の材質の問題など、根幹的な部分の手直しに多額の追加製造コストが必要となった。これらは一般的な問題であり開発コストを含む初期型建設には常に付きまとうリスクであるが、EPRは設計を途中で変更するたびにアップグレードされ、当初の見積もりを大幅に超えることになった。量産型の建設難易度やコストは当然下がる。衝突安全性を高めるために建物の構造強度を上げるには建物全体の再設計が必要だし、一部の手直しが多くの周辺に波及するのは珍しくない。

 

中国に建設中のEPRだけ何故、建設が順調なのか

EPRが全期建設遅れが生じているわけではない。先進国でのEPR建設の大幅な遅れにも関わらず、中国広東省で中国国営企業とアレヴァ(EDF)共同で2009年からEPR3号機、2010年からEPR4号機の1750MWのEPR建設が始まった。進捗状況は順調でEPR3号機は計画通り2013年9月に完成し、1750MW、世界最大の出力を有する原子炉として立派に稼働中である。つまり量産型EPRなら5年で完成ということになる。しかしこの背景にはEPR1号機、2号機で発生した初期故障や技術的問題を避けられたからに他ならない。(注5)最後になるが雇用コストが中国で低いことも大きな要因である。

(注5)言い方を変えればフインランドとフランス国民の税金が開発に投入されたおかげで、中国は量産型を低コスト・短期間で稼働できたのである。装置を開発コストが量産型の販売コストに上乗せされれば回収可能できたであろうが、販売時に価格競争があるためそれができないことは多い。

 

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