人工光合成はエネルギー危機を救えるか

このほどオバマ政権は化石燃料に代わる新エネルギー源としての人工光合成研究開発に7,500万ドル(日本円にして約90億円)の予算を投入することを決めた。この予算は2010年に設立されたエネルギー省人工光合成研究センター(JCAP)が推進する空気中のCO2と水から水素を経て炭化水素を製造し、化石燃料を置き換える実用化研究に充てられる。日本でも水素社会を目指してNEDOが推進する循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクトを始めとして光触媒の研究では世界をリードしてきた。

 

 

米国が人工光合成に本腰を入れる理由

米国ではすでに電源構成で再生可能エネルギーの比率は順調に増大しているが、人工光合成は安定な電源としてこれらと相補的な使用を想定している。JCAPの狙いはエネルギー省傘下の20か所の研究開発センターに分散している研究資源を集結して一気に、人工光合成研究開発を促進することにある。ここまで危機感を募らせるのはシェールオイル・ガス革命と呼ばれた原油と天然ガスの国内増産にも、2050年に倍増するエネルギー需要の対策としては十分でないという将来予測が背景にある。

先進国は化石燃料に代わるCO2排出量の少ないエネルギー源に移行しなければならない課題を背負っている。1970年代に原子力が排出の少ない救世主として登場したが、バックエンドと呼ばれる核燃料廃棄に今でも見通しがつかず、チェルノブイリ、スリーマイル、福島第一の一連の原子炉事故により、環境汚染や健康被害が国民に認識されると原子力ルネッサンスと呼ばれる復興はならなかった。

今回の予算措置について実用化にならない研究開発として批判する専門家もいるが、太陽光エネルギーで水素や炭化水素などの燃料を製造するメドがつきかけている夢に終わらない研究なのである。水素社会の実現には水素の大量製造のためのエネルギー(熱・電力)が必要になるが、家庭(エネファーム)やオフイスの燃料電池サーバーなど小・中規模の製造設備として実用に耐えるレベルに近い。

 

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Source: EARTHTECHLING

人工葉の最近の展開をまとめてみた。

 

人工葉

ハーバード大学のNocea教授はシリコンの両面を触媒薄膜に接合した太陽光水分解セルを「人口葉(Artificial Leaf)」と呼び、安価な光触媒デバイスとして提案している(関連記事参照)。太陽電池の起電力を使った水分解システムは他にも数多く提案され活発に研究開発が行われている。問題点はまだ変換効率が低いことと触媒金属として用いられる白金のコストが高いことであるだが、後者についてはNocea教授の非白金触媒は安価で低コストの水分解セルが製造できるとしている。

 

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Source: UT Delft

 

人工燃料合成

イリノイ大学はタングステン2セレン化物(下図)のナノフレークを触媒として用いることによって、炭化水素鎖の合成ガス(水素ガスとCOの混合)を作り出すことに成功した。この触媒は従来のものに比べて12,000倍高い効率を有している。実際にはコスト比で20-30分の1であるので、実用化に一歩近づいた結果と言えるだろう。変換効率の向上には表面積を増大させたナノシートにしたことがポイントである。このナノシ−ト、ナノフレーク光合成触媒を排出CO2ガストラップに用いて工場排出CO2を合成燃料に変換できるようになる。

 

バークレー研究所は金属酸化物ナノ光触媒を用いて人工光合成に取り組み、エタノール合成を試みている。研究グループはコバルト酸化物(CO3O4)クラスターを多孔質シリカ表面に固定したナノ構造で、これまでのミクロンサイズの微粒子触媒より1,600倍となる水の光分解の高効率化に成功した。クラスタあたり発生する酸素分子は1秒あたり1,140個が記録されている。この材料で光合成セルをつくると1m2あたり1,000 Wの太陽エネルギーを水分解に用いることに相当する。ナノ構造のサイズは効率に大きく依存し直径8 nm、長さ50 nmが最適であることがわかっている。

材料自身は日本でも古くから研究対象となっているものだが、日本では薄膜や微粒子での効率測定どまりで、ナノ科学に踏み込んだ研究展開がなされていない。せっかく材料を絞り込んでも効率がの伸び悩むのはそのためかもしれない。しかしここにきて米国流の分野間の連携能力の高さで効率は一気に高められることとなった。日本でも積極的にナノ科学を触媒の高効率化に結びつける新しい研究展開が必要となるであろう。

 

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Source: Berkley Lab

 

日本の得意とする触媒の分野ではこれまで最新の表面科学研究機器が用いられてきた。最近ではイメージングや中性子、放射光などの量子ビーム研究手法も活用されて触媒機能研究は近代化された。かつての役所主導の「国プロ」は研究者主導に衣替えしたが、大型研究施設・機器の共同利用という日本独自の研究文化は広範囲な探索研究に役立っている。例えばNEDOがSpring-8に燃料電池のミクロ解析専用のビームラインを設置して研究拠点化し成果を上げている。しかし上記のように開発研究の最先端は「触媒機能をナノ構造(ナノフレーク、ナノシート)に組み込む」ところにあり、ナノ構造研究者を取り込んで研究体制を強化する必要がある。

また政府のエネルギー政策にも原子力への揺り戻しや再生エネルギーへの躊躇などブレが大きくビジョンに欠ける。しかし日本が先行していたはずの水素社会構想や人工光合成の分野でナノ科学を武器に、米国は追い上げを見せてきている。この先優位性を保ちクリーンエネルギーの世界的な見本を示さねばならない日本。分野間の壁が研究効率化を下げる要因であってはならない。

 

 参考記事

自然に学ぶテクノロジー〜人工葉について

 

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