自然に学ぶテクノロジー〜人工葉について

人類は原子力を手に入れた時、あたかも無限のエネルギー源を手にしたかのように思えたが、どうやら思い違いをしてのかもしれない。先を急ぐあまり安全な制御や後処理について解決されないまま安易に利用してきたからである。安全性も確保できない事故を体験した。後処理(バックエンド)の解決も模索が続いている一方で、核施設周辺では漏れ出した核廃棄物質による環境汚染が深刻化した。原子力登場時の絶対的な比較優位性は色褪せ、その評価も変わりつつある。しかし「パンドラの箱」をいったん開けた以上、過去を清算することはできないのである。未来に向けてできることはより完全な制御とバックエンドと向き合うことであり、それは「パンドラの箱」を開けた我々の責務でもあるだろう。

 

光合成に学ぶ水分解

一方、地球に降り注ぐエネルギー(注1)のごくわずか(1%以下)を使いながら植物はCO2と水から酸素とショ糖を生み出して、人間生活を支えてきた。よく知られているように水分解には1.23eVのエネルギー障壁があるが、葉緑素は酵素を介した太陽エネルギーで空気中のCO2を取り込んで炭素鎖を合成し、同時に水を分解し酸素を生み出す。

(注1)地球上に降り注ぐ正味の太陽エネルギー密度は1kW/m2である。カロリー換算で約42兆カロリー/秒、大雑把に表現するとこのエネルギー1時間が全地球のエネルギー消費の1年分に相当する。このエネルギーも起源は太陽の核反応(核融合反応)にあるのだから、人類は原子力と永遠に「手を切る」ことはできない。

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Source: Chemical Society Review 38 (2009) 253.

 

増え続けるCO2(注2)を減らすためには、排出量を減らすだけでは効果がない。フロンを規制することでオゾンホールの増大は防ぐことができた。しかし排出量を減らしても、大気中の濃度を減らすには大規模な回収が必要となる。そのため太陽エネルギーを使い空気中のCO2を触媒作用で固定する試みや、水分解を光合成に習って人工的に行う技術の開発が活発に行われている。まだ人工光合成のエネルギー変換効率は0.1%止まりだが、太陽光水分解は太陽光パネルによる電気分解と人工葉・光触媒のふたつのアプローチで研究されている。太陽光パネルによる電気分解は2015年にエネルギー変換効率が急激に改良されている。

(注2)過去33年間の衛星データを整理し地球モデルのシミュレーションと組み合わせた研究によると、この期間にCO2は地球の緑化に寄与していた。CO2濃度が増えた結果、地球上では緑化が32%進み、その70%が温暖化によるものでなく、CO2濃度の上昇に葉を増やして適合しようとした結果とされる。CO2濃度増大が緑化に寄与していることは、その分、植物や土壌に炭素が蓄積されたことになり、CO2と温暖化の関係は簡単でないことがわかる。

 

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Source: materials360online

 

太陽光水分解(Solar Watersplitting)

太陽光パネルで発電して水分解を行う太陽光水分解はi)高効率太陽光パネルの使用、ii)電極間に導電ポリマーを挟電極むことで電極間距離を小さくし、iii)電気回路のマッチングを最適化することにより最高効率24.4%(東大グループ)を達成した。したがって太陽光パネルによる電気分解は現時点でも小規模の水素生産装置には十分なエネルギー変換効率が得られている。

以下に2015年の研究開発の進展を簡単にまとめた。15.3%を集光レンズ系の改良、導電性高分子で電極間距離を縮め、太陽光パネルの起電力と電気化学セルの整合により理研が15.3%を達成した。その後Monash大学が22%(Energy Environ. Sci. 2015, 8, 2791-2796.)、東大が24.5%(Applied Physics Express 8, 107101 (2015).)と、効率改良が相次いだ。この方法では太陽光パネルで発電して、水素にエネルギーを変換して畜エネルギーできる点に注意したい。

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Source: Technishe Universitat Darmstadt

 

人工葉 (Artificial Leaf)とは

一方、MITの研究グループは人工葉(Artificial Leaf)と呼ばれる両者を組み併せたデバイスを開発した。

これまで太陽光パネルの両面に電極を蒸着しただけの太陽光電気分解システム(ワイアレス型)では太陽光を吸収したパネルの起電力を水の電気分解に応用したもので、酸素と水素に分解するために必要な自由エネルギー1.2eVをパネルの起電力で得る。MITの研究グループはアノードにはコバルトを含むOEC(酸素発生錯体)を用い、またカソードにはNiMoZn合金を用いて効率3%を達成した。研究グループリーダーのNoceera教授はエネルギー関連の起業に熱心で、人工葉というネーミングは将来の起業を狙ったものである。もちろん人工葉はシリコンデバイスでありもちろん葉緑素を持つわけではないから、「人工葉」は厳密には正しい表現とは言えないが、光合成の半分の機能である水分解を行うことであえて半導体デバイスらしくない自然な植物のイメージをもたせたと考えられる。

 

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Source: MIT

 

光触媒

光触媒では太陽光パネルを使わないで、直接光触媒に太陽光を照射して水分解を行う。その光触媒を太陽光電気分解の電極に使うことで効率を上げることができる。光触媒は日本が得意とする分野で、東大グループによりTaONと白金電極をカソードとアノードに用いた最新型で人工葉と同じエネルギー変換効率3%が達成されている。光触媒の強みは太陽光パネルを使わないので済むため、低コスト化が可能である点だが、できればコスト的には白金電極を使いたくない。そのため貴金属を使用しない光触媒の研究も盛んになっている。

 

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Source: SPIE

 

産業用の水分解システムの市販化には変換効率10%が要求される。残念ながら人工葉も光触媒も現状では実用レベルに手が届かない。経産省は将来の水素社会に必要な水素生産を小規模なものをCO2排出量を増やさない太陽光で行うとしている。それには人工葉も光触媒もエネルギー変換効率の改良が必要となる。

政府が目指す水素社会では水素を燃料にした発電システム(燃料電池)が中心となる。大規模の水素生産は電気エネルギーに頼らざるを得ない(注3)が、人工葉と低コストの光触媒は家庭用燃料電池(エネファーム)で住宅の発電に応用できる。政府の進める水素社会構想にはトヨタのFCV、MIRAIに代表される燃料電池がある。EVが市場では先行しているがEV自身はゼロエミッションでも電力を作るのにCO2排出があるので、その効果は相殺される。その点で水素を製造するのに再生可能エネルギーを使えば真にゼロミッションが達成できる。トヨタに続いてメルセデスベンツも燃料電池車に舵を切ろうとしている。今後の燃料電池の普及で鍵を握るのは低コスト水素生産である。

(注3)オリンピックが開催される2020年までに10MW福島の再生可能エネルギー(電力)を使った世界最大規模のゼロエミッション水素製造工場が稼働する。2020年には水素社会へ向けて歩き出すが、水素を太陽エネルギーで作り出す人工葉や光触媒は家庭での燃料電池でその一角を形成するとみられている。

人工葉・光触媒によって地球に降り注ぐ太陽エネルギーの恩恵を受けて人類が生態系に学部という発想の転換のきっかけとなるかもしれない。簡単に電力や水素が手に入るようになれば、将来のエネルギー危機を回避できるのではないだろうか。人工葉には人類が自然に学び賢くエネルギーを使うという願いが込められているように思える。

 

補足:

太陽光エネルギーが全電力に占める割合は

ドイツ:2020年までに35%

中国:2030年までに20%

シドニー(オーストラリア):2030年までに100%

 

 

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