貧富の格差が蝕む米国中産階級

ピケテイの著書をきっかけに世界中で進む貧富の格差に関する議論が広がっている。格差はとどまるところを知らず拡大の一歩をたどり、今では世界の富のほぼ半分がわずか1%の最富裕層によって保有されているまでになった。世界中でOCCUPY現象を引き起こした(1%に対する)99%を自称する人達のもつの危機感には根拠があるのだ。

 

また富裕層の上位10%が全体の87%の富を保有しているが、下位層の70%は2.9%しか保有していない。最下位層の30%にいたってはグラフに登場することがないほど富を持っていない。いかにごく一部の人たちに富が集中しているかがよくわかる。もっとも格差(Inequality)が顕著なのはもちろんアメリカである。1%が膨大な富を握るのに目をつぶるとしてもTOP10%以下の中間層の存在感がない。中間層が消失することで富裕層と貧富層の距離が開いていくことに問題がある。

 

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Source: Susan Rosenthal

 

広がる富の格差

格差に関する最新の調査結果は、クレディ・スイス証券のものであるが、国際NGOのオックスファムもほぼ同様の内容の報告書を公表しているので公表された数値の信頼度は高いと考えられる。1%の富裕層の中で上位にいる「超富裕層」(85人)の所持する総資産が世界人口のおよそ半分の35億人分に相当する富を独占するとという。こうなると「格差」というよりは富の「独占」と呼ぶべきなのである。

世界中で起きている一般的な現象、「貧富の格差」はリーマンショックと呼ばれる2008年の金融危機以降、特にアメリカで拡大した。それはアメリカで始まった量的金融緩和政策(QEと呼ばれる)と密接な関係がある。量的金融緩和すなわち紙幣の印刷により、低金利と手元流動性の増大を歓迎した金融機関や投資家はこぞって極端な投資を行なった。それまで低迷していた米株式は2009年から2014年までで、2.65倍も上昇しそれによって資産価格は上昇した。このためにより多くの資産(株)をもつ富裕層がより資産を増やし、独占的に量的金融緩和の恩恵を受けることとなった。

 

格差の増大は実経済や社会構造にも実は大きな影響を与えた。世界の富が限られた富裕層に集中していることだけでなく、国の総資産と総所得の比率、つまり、国全体の資本の蓄積額と国民の所得額の比率が上昇していることである。ピケテイが著書の中で論じている問題点はこのことである。ピケテイの簡単な不等式r>gで表されるように、資本の蓄積の速さが総所得の上昇より速いことを意味する。すなわち資本の収益率が総所得の成長率より高い。この比率が高くなれば経済が不安定になる一方で、資産が集中している最富裕層がもつ社会的・政治的影響力はより強くなるとされる。富の独占が社会の独占につながるという危険性こそもっとも警戒しなくてはならないことなのである。

歴史的にはITバブル崩壊(2000年)や金融危機(2008年)の前、総資産と総所得比率は実際6倍以上に上昇している。一方でバブル崩壊後には、総資産と総所得の比率は4から5まで低下した。この比率は6.5倍にまで上昇しかつての世界恐慌の起きる前と同じ水準にある。つまり高値に沸く株式がバブル状態にあり、やがてバブル崩壊を迎えてもおかしくないとうことになる。株式だけにとらわれれば逆の見方(好景気)もあるだろう。ピケテイが指摘する以前から続いてきた異常な資産と所得の比率はこの先、経済が不況に向かうことが避けられないことを示唆している。

 

アメリカ雇用統計の真実

アメリカの実経済と社会状況にも明らかな富の格差を反映する傾向がみられる。労働省発表によるアメリカの2014年9月の雇用統計では失業率は5.9%にまで改善されたが、この数字は米国経済の回復を反映していない。

米国政府は国内失業率の低下傾向は(量的緩和政策が成功し)景気が回復したため就業者数が拡大したこと、すなわち雇用情勢が改善の傾向にあるとした。失業率を米連邦準備制度理事会は金融政策(量的緩和の継続か中止か)を決める主要な判断材料としている。見かけ上の失業率の改善は景気が回復している証拠であるとされれば、これまで続けてきた量的緩和政策の終了に向かうはずだ。

しかし失業率が下がった背景にある現実は景気回復と逆で、実際には景気は回復していない。失業率より労働市場の状況をより明確に反映するのは雇用統計のU-6の数字である。失業率の計算における定義、「正式に失業状態」には、①就職したいが、厳しい求人環境で求職活動を断念した人、②正社員として働きたいが、③パートタイムの職しかないため、経済的理由からパートタイム職についた人、④求人活動は行っているが経済的理由から何らかの社会保障を受けている人は、⑤仕事につきたいが、現状では労働市場環境が悪すぎるので、一時的にあきらめている人達は含まれていない。

これらが含まれているために、より正確な雇用状況を反映するU-6データによると失業率は、11.8%である。下の図はで低めだがこれに近い。あきらかに政府発表の5%台というのはあり得ない数値なのである。

 

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Source: m.opinioncenter

 

減り続ける労働者人口

もう一つの重要な数値は、労働市場に占める労働者数で、労働者参加率は59%と36年ぶりの低水準まで下がった。およそ30万人が労働市場から出て行ったことにより、約1億人の人が労働市場に参加していない国となった。総人口は約3億人であるから如何に労働している人口が減っているかがわかるだろう。

増えた求人職の8割は(例えばファーストフード店など)低賃儀、最低時給の職であった。高所得、専門職、製造業職はなく、ほとんどはサービス業セクタであった。現実はアメリカは長期にわたり失業者大国で、労働市場の悪化は続いていることは政府の雇用統計と真逆の結果となる。

富の格差という言葉の裏にある本当の怖さは労働市場の落ち込みと中産階級の消失である。実際、(1%でないと認める)アメリカ人の多くは1%の富裕層が贅沢をしようが関心はないと、答えている。問題は格差が社会構造や理念(注1)すら変わりつつある点にある。日本でもその傾向があるとしたらどうだろう。もしかしたら雇用が増えたと言っても契約職員だけ増えているのではないだろうか。

(注1)誰でも努力すれば成功を手にすることができる均等な機会が与えられているとする建国以来の自由平等の理念。現在はアメリカンドリームが叶えられない国となった。アメリカンドリーム復活を掲げるトランプ氏が支持されるのもそのためかもしれない。

 

 

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