増大する放射能物質の紛失と盗難-いまそこにある危機

アメリカとメキシコの国境における不法移民の問題で、メキシコカルテル、ギャング、ISIS系テロリストが最近不法移民の間に潜り込んでアメリカに渡っている深刻な状況のなか、ここ7ヶ月の間で3度にわたり、メキシコで放射能物質が盗難されたことが大変気になる。

下の図のように米国とメキシコの国境沿いには不法移民の拠点が多い。テイファナ(Tijuana)は特に米国に近く米国からの観光客の多い街だ。

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最初の事件は、2013年12月に医療用コバルト60を輸送していた2.5トントラックが数人の武装隊により襲撃、盗難された。メキシコ、テイファナの病院から放射能廃棄物保管センターに運ぶ途中であった。メキシコ政府は即座にIAEA報告、警告がだされた。輸送していた数量は不明とされたが、理論的に、60グラムで"dirty bomb" (注)が作られるといわれている。2日後、容器と取り出されたコバルト60が発見、関係者6人が逮捕された。
http://www.bbc.com/news/world-latin-america-25212648

 (注)放射性廃棄物などの放射性物質をまき散らす爆弾で、核物質の純度や構造、特に起爆装置の精度が不要なので製造が容易だが、放射性物質の汚染で周囲に与える影響は通常核兵器と変わらない。

6月には、メキシコ政府の研究機関であるNational Construction Laboratoryからセシウム137 とアメリシウム・ベリリウムを含む装置が、数人の武装隊により盗み出されたことが判明。7月3日には、工業製品の製造に使われるイリジウム192がまたもや輸送中、盗難にあうが、数日後発見された。
http://news.yahoo.com/radioactive-material-stolen-mexico-officials-174602973.html
http://latino.foxnews.com/latino/news/2014/06/12/radioactive-material-stolen-from-lab-in-mexico/

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さらに、7月8日にイラク、Mosul大学で研究目的に保管されていた40キロのウランがISISテロリストにより盗み出されたことが国連を通じて明らかになった。イラク国内又はイラクから運び出され、"dirty bomb"に使われる可能性が高いとされ、イラク政府は世界各国に警告を発した。
http://www.reuters.com/article/2014/07/09/us-iraq-security-nuclear-idUSKBN0FE2KT20140709

IAEAの核物質や放射性物質の不正取引や不正所持データベース (IAEA Incident and Trafficking Database) によると、1993から2013の間に2477件の事件が報告されている。うち424件は不正所持と不正取引、664件は紛失や盗難、1377件はその他の不正活動と事件、69件は情報不十分で断定できない事件と発表されている。

なかでも、424件の不正所持と不正取引のうち、16件は濃縮ウランとプルトニウムの不法所持で、国際闇市場での売買目的のものであった。ほとんどの所持量はグラム程度(その内、未確認量のサンプル品)であったが、核兵器製造に必要とされるキログラム量も数件報告されている。不正取引の件数は、摘発され(地元警察、FBI, Interpol, Scotland Yard など)IAEAに正式に報告された事件である。だが、国際レベルで不正に取引されている核物質と放射性物質の規模、特に国際闇市場の実態は分からないとされている。

核物質や放射性物質の紛失と盗難のほとんどは工業製品の製造過程、建設や鉱山発掘で使用される機械や装置、医療や研究目的で使われるものである。最も危険度の高いカテゴリ1からカテゴリ3の回収率は高いが、ほとんどのカテゴリ4からカテゴリ5の事件が解決されているかは報告義務がないため、未確認である。
http://docsize.com/files/iaea-incident-and-trafficking-database-itdb-incidents-.html

旧ソ連や、メキシコ、パキスタン、インド、イラン、シリア、エジプトなどの後進国に留まらず、フランス、ドイツ、ベルギー、イタリアといった先進国でさえ、不正所持、不正取引、紛失や盗難が報告されている。IAEAの加盟国が報告を行うが、報告されない事件も数多くあるといわれている。旧ソ連から盗み出された核物質とその行方、イスラム過激派による不正取引、パキスタンや北朝鮮の核物質取引の疑いなど、確認がとれないものは多い。

2013年には、160万キロの濃縮ウランと50万キロのプルトニウムが世界中で保有され、これは原子爆弾125,000個分の製造に匹敵する。この意味するところは何か。"dirty bomb"を含めるならば、完全に60年代の核抑止力のスキームが崩れたのである。多くの事件は公式発表されていないことが国民の問題意識の低さにつながっているのではないだろうか。あらためて核拡散の現実を認識し危機意識を高めることが必要である。

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核廃棄物が地下に保存され、埋められていることが表記された核の墓標。人類の残した負の遺産が眠る「墓標」は増え続ける一方だ。CAUTION-DO NOT DIGと刻まれている。

 

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