ソ連崩壊を早めた放射線

チェルノブイリ原発事故の詳細は他のコラムにゆずることにして、ここではその影響がソ連の経済に与えた影響とそれが冷戦終結の直接の引き金になった可能性に言及したい。

 1986年、チェルノブイリ原発にはソ連独自開発、というよりも黒鉛ブロックを減速剤としたフェルミ原子炉の延長線上にある黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉が4基稼働していた。そのうちで良く知られた4号機がメルトダウンと爆発をおこし、放射性物質がウクライナを中心として広範囲にヨーロッパを汚染した。

チェルノブイリ原発事故はソ連当局が内外に公表せず、施設周辺住民の避難措置も取られなかったため、①処理に当たる消防隊、軍隊、労働者および②施設周辺住民が高線量の被曝を受け多大な人的被害をもたらした。チェルノブイリ事故の前年1085年、ソ連共産党書記長に就任したゴルバチョフはペレストロイカを掲げ、経済疲弊をもたらしていた軍備拡張に歯止めをかけた。しかしいったん動き出した体制改革の波は歯止めがかからない。1989年にはポーランド、ハンガリー、チェコスロバキアで共産党体制が倒れ、ベルリンの壁が崩壊した。一見直接関係はないと考える人も少なくないが本当にそうだろうか。

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 冷戦の終結を1989年と考えると何がその原因となったのか。定説では①国家政治と経済、②軍拡競争による経済の疲弊、③生活環境における共産主義の限界と破綻である。①は共産主義下では世界的に競争できる産業を持てなかったこと。主に、当時は鉄鋼産業はその国の経済成長をもたらす産業で、世界的に競争優位があれば、成長発展が保証された(イギリス、アメリカ、日本、韓国)。ソ連はトップ技術は持っていたが、コストが高く、競争に負けた。経済発展ができなかった。②アメリカと常に軍事競争をしており、1970年ごろまでは軍備拡張路線を継続したため国家財政が悪化していった。③経済の悪化により、生活水準が共産国家前の水準まで下がった。共産主義が生まれたのはプロレタリアと市民の経済格差による革命である。いずれ経済破綻の末のソフトランデイングまたは市民蜂起革命は避けられなかった。

ここではこれらに加えてチェルノブイリ原発事故が与えた効果について考察する。北朝鮮の例をみれば明らかなように、体制を民衆が変えるには体制内部(軍隊)の同調がなければ、変革の駆動力になれない。では民衆と軍隊を同時に動かしたものは何だったのか。

のべ50万人の事故処理労働(多くは解体と石棺の建設)に当たった労働者、事故から決死隊として命令に従った軍隊は多くが若い中堅を担うべき世代であった。放射線障害や精神的なストレスはかつて米国がベトナム戦でそうだったように、若者の反体制意識をかき立てることになる。また解体に関わる雇用と建設費の経費はソ連の負債を劇的に増大した。数10兆円規模といわれる経済的損失はすでに軍備拡張で疲弊していた経済を悪化させたことは疑う余地がない。また解体作業にあたった労働者や強制避難させられた民間人の多くが貧困にあえいでいたため、実質的な影響ははるかにきびしいものであった。国家の秘密主義で犠牲になった民衆の精神的なダメージで国家統制が揺らいだ。

 

コメント   

# プーチンの家庭教師 2013年06月21日 09:42
暴力革命が暴力革命で滅びる。皮肉なものですね。チェルノブイリの(信用できない公式発表の)死者は59人、ということだが実際のところは闇の中。犠牲を強いるのはK-19潜水艦の事故処理と同じである。

英雄的行為の見返りはわずかな賞与。疲弊した民衆の心は折れたであろう。共産圏の政権交替は過激な権力闘争による事が多いが、自滅の道を歩んだ。
# Mr.Toshi 2013年06月22日 19:02
面白いお説です。可能性はあるかも知れません。

科学者としては、定量的な記述があると良いな、と思います。

1.
ソ連が軍拡競争で捨てた経済規模と、チェルノブイリ事故で失った経済規模はどの程度か?

2.
日本は、広島と長崎に原爆を落とされましたが、崩壊しなかったのに、ソ連はチェルノブイリの影響で崩壊したなら、
チェルノブイリ事故の経済的影響は、広島、長崎より遙かに大きかったのか?

科学者って、面倒臭い人種だなあ
と思われるかも知れません。
# 憂鬱な暴力革命家 2013年06月24日 08:07
ソ連、(フランス、米国...)がこの国と決定的に異なるのは、民衆が決起して血を流して横暴な政府を倒し、自由を勝ち取ったということかな。自由の価値が身にしみている、ともいえるかも。限界に達すると爆発する国民を応援したくなるのは私だけかな。

広島、長崎が人的経済的損失を与えても日本が崩壊しなかった理由は、ふたつあると思いますが。

その1 極東で共産圏で戦っていた米国は日本が崩壊すると圧倒的に不利。彼らの戦争を支える物資補給ができずに、下手をすると極東から撤退に追い込まれた。だから日本を援助しまくったのです。注)南北両国はいまなお停戦状態。

戦争末期に貧窮していた日本人の子供達は米兵からチョコレートをもらい、職を失った親は軍需の注文をもらってなついたんです。(ポチとよばれる所以)注)疲れた時のチョコレートは格別ですよね。。。米兵からもらえたチョコレートは、親(米国)に感謝する(同時に逆らうことができない)気持ちを植え付けたでしょうね。

その2 国民の大多数と一部の賢明な将校は原爆を落とされる前から、敗戦を感じていたでしょう。潜水艦から米国を空爆すれば敗戦の印象を与えると考えた軍部ですから空爆がどういう状況にあるかはわかっていたはずです。知りながら惰性で戦争してたということです。戦争は始まったら止められない、止まらない、のです。だから国民は密かになんらかのきっかけをつくってほしい、と。

日本人の精神構造は農耕民族特有のもろさを持っていました。抵抗できないと知ると、長い物にはまかれろ、であきらめた。牙をぬかれたんですね。1)で勢いのついた国民は復興に次の目標(合法的経済戦争)をかぶせて頑張りました。所得倍増ということは倍働け、ということでした。国民はその通り頑張り、犠牲を伴いながらも、米国を技術で追い越せ、という経済戦争には一時的な勝利を収めました。
# ピアニスト 2013年06月27日 08:16
東欧の家庭ではスープを日本人が考えられないほど大切に扱うみたいです。遭難寸前の雪山で救出されたらまずスープ。貧困で食材が買えない家庭でも体を暖めるのはスープ。ドイツ軍に占領されても心を温めていたんだろうな。

ポーランドで印象的だったのはキノコスープでした。これをいただくと体が暖まると同時に、元気がでる。

ロシアにはボルシチがありますが、黒パンとスープが主食のぎりぎりの生活をしていたであろう当時、チェルノブイリと軍拡競争で経済疲弊すれば明日に希望をつなげなくなり、ソフトランデイングで蜂起したのとちがいますか?

彼らの食生活の質素さは驚嘆に値しますが、限界値を超えて圧力がかかったのでしょうね。
# 共産圏の統計学者 2013年06月27日 08:23
共産圏の経済統計は架空の数字ですので信用していませんが、経済的損失は17兆円という数字がありますね。

しかしここで強調したいのは消費マインドの冷え込みです。食材が汚染されれば買わない=売れない=赤字経営=他のセクターに影響=倒産、という負のスパイラル。
# Morizo 2013年07月19日 10:32
チェルノブイリの原発労働者の家族は夫がどういう仕事をしているか、ほとんど知らなかった。そういえば子供のころ習った話は明るい未来とそれを支える原子力。でもいまの状況では(ちゃんとした判断できる情報が無さ過ぎて)判断すら危険です。

残念な事故ですがロシア人の性格で無茶なことを平気でするのも確か。車の事故が多いのもそのため。
# 英雄の代償 2013年07月22日 12:01
原発の事故処理で装備も支給されず、モニタすらない状態で現場に突入させられた若い兵士たちを待っていたのは英雄的行為を称えるわずかな紙幣。

自分が命をかけた代償の価値を知った彼らはどれほど国家を恨んだか。

ベトナムで泥の中で戦ってきた若い米兵士は故郷に帰ると、冷やかな眼でみられた。

国への忠誠が両国で弱められた結果、それぞれさまざまな社会現象となり、前者の場合は体制の崩壊につながった。
# 浪人生 2013年07月24日 09:37
チェルノブイリの場合、除染をしなかったんですよね。広大な国土なら立ち入り禁止にするだけ。

除染してたら経済崩壊はもっと早かった。福島の人たちの気持ちは十分、わかるが、除染にお金使うなら、放射線特区にして少なくとも一定の期間、使用済み核燃料の保存基地にしたらどうか。

また安全な原発の研究開発を行う。
もちろん福島の人たちには救済をしっかりやり住居と雇用を保証しなければならない。
# 異邦人 2013年08月11日 13:25
原爆は終戦を早めたというのは嘘。すでに終戦は決まっていて、原爆の効果をロシア(共産圏)にみせつけるため。

原爆の恐怖を知ったロシア人にとって放射能の恐怖と、神風式に人命を尊重せず若い人を送り込む政府に恐怖を覚えたはず。

原爆=チェルノブイリ=共産主義への恐怖という構図ではないか。

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