ヘリウム危機で早まるか高温超伝導の実用化

 放射線との関わりでは原子炉の冷却や核融合燃料に使われるヘリウムだが、一般には低温冷媒として超伝導磁石に必要不可欠なガスとして、近代社会にかせない元素である。そのヘリウムの価格が急騰するという「ヘリウムショック」が世界を襲った(2012年)。ヘリウムの関係するテクノロジーの存亡を思わせる出来事だったが、危機はいまでも続いている。

 

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 Photo: University of Oxford

 ヘリウム(He)は原子番号2、常温常圧では無味無臭、不活性のガスとして存在する。大気中の存在比率は0.0005%(ちなみにウラン235はウランの0.72%)。水素と異なり電子状態が安定で1個の原子として存在するが、一般の人々が接する機会といえばヘリウム風船や気球、そして飛行船がおなじみだが、超伝導や極低温物理に関心のある人以外は直接扱う機会はないかもしれない。そのヘリウムの供給に暗雲が立ち込めている。上の写真のような極低温実験設備も運転できなくなるかもしれないのだ。

 

 筆者の学生時代には教官から地球上のヘリウムは散逸して40年以内になくなるから、早く実験しろ、といわれていたが、現在は25年の寿命という説もある。しかしそれ以上の危機はレアアース問題と同じように、すべてのヘリウムが一国の独占的供給に依存する特殊な市場であることに起因する。

 液体ヘリウムの4.2Kの超低温は実用的な超伝導材料の超伝導転移温度より低いため、強力な磁場をつくる超伝導磁石に必要不可欠な冷却材である。具体的にいえば病院のMRI、またその原理でもある核磁気共鳴(NMR)の磁石に使われる(特に周波数の高い装置)。NMRは化学分析に欠かせない分析装置。MRIは生体活性の3D表示のできる装置で、動かなくなれば病院はパニックになる現代医学には欠かせないハイテク機器だ。

 

 2012年のヘリウムショックはどうして起こったかを調べていくと、「レアアース」問題より深刻な独占供給体系がみえてくる。中国のレアアースの埋蔵量は世界の1/3だが世界全体の産出量(12.4万トン)の97%を中国が独占していた。「レアアース問題」では尖閣問題を背景として中国政府が日本への輸出制限を政治的圧力として行ったことにはじまる。以後、日本ではレアーアースへの依存度を低め、リサイクル技術を開発しするとともに、欧州、米国と歩調を合わせてWTOに提訴し勝利した。

 

 このため中国の輸出禁止措置が撤回されたが、日本にレアアースを供給しないと世界中で生産している日本の部材が、世界市場に供給できなくなり中国国内ばかりか世界中の関連産業の反感を買った。現在では中国以外の産出も増えて、輸出が減って価格が下がり中国のレアアース業者が深刻な不振に陥っている。

 

 ヘリウムショックについて調べると、同じような危険性が明らかになった。ヘリウムはレアアース同様に長い間、供給量の90%をアメリカが独占していた。アメリカがヘリウム供給大国となった経緯は、簡単にいえば天然ガス掘削と東西冷戦である。歴史的には1903年カンサス州で石油掘削ボーリングのガス分析で発見された。

 

 中西部の天然ガス掘削時に回収したヘリウムは、一次大戦では軍事的な利用(気球など)で生産量が拡大し、アメリカはヘリウム供給を独占するようになった。テキサス州のアマリロにアメリカ政府が国家備蓄基地を設置して産出するヘリウムを、軍事物資として備蓄した。  戦後の米ソ宇宙開発においてヘリウム消費が一気に増えたが供給量も増大しアマリロの備蓄基地は備蓄を続けたため1995年には10億立方mという膨大なヘリウムが貯蓄されるに至った。大量に備蓄が進んだアマリロのヘリウムをアメリカ議会は市場に売り切りように放出するよう法令化した。

 これにより世界市場にヘリウムが供給されたが、当初は2015年に売り切る予定で、安定供給は時限付きの2015年までとなった。世界的な需要が増えたのはNMRやMRIが普及したことの他に、原子炉、研究用冷凍機、潜水用の酸素ガス混合用、民生品の気球や変声ガスなど新たなニーズが増えたことによる。当然だが備蓄を売り尽くせばヘリウム供給が停止する。

 

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 2012年に供給側の不備で供給不足になると2015年以後の供給が不透明なこともあって、価格が急騰した(上の図参照、日本経済新聞)。アメリカ議会では2015年の期限を2020年に延長する法案が通ったが、その先の供給は依然として不透明である。一方、欧州ではポーランド、中東ではカタールで天然ガス掘削で得られるヘリウムを増産する動きも出たが、アメリカの供給量を肩代わりできるわけではない。

 そのため国内では研究所のヘリウム液化設備の多くが閉鎖され、ある場合には現場ごとにリサイクルヘリウム冷凍機を使う方向にシフトしている。もう一つの手は高音超伝導体で置き換え、液体窒素温度で動く超伝導磁石を実用化することである。高温超伝導の応用はまだ時間がかかるが、ヘリウムの時代が終焉を迎えようとしているとするならば、安全保障のために研究開発を加速せざるを得ない。

 

 阿部首相が得意げにアメリカ大使にアピールし、無償で超伝導リニア技術をアメリカに供与するのも、運転に必要なヘリウムの安定供給と引き換えといわれる。しかしこれは短期的な対策でしかない。いずれ25年先に枯渇するならば、高温超伝導磁石で置き換え無尽蔵の液体窒素で運転できるようにするしかない。これが機会となって現在、中途になっている高温超伝導研究が息を吹き返すかもしれない。

 

コメント   

# 冷凍ミイラ 2016年05月22日 15:16
ウランも枯渇するといわれているのに平気で作り続けてますよね。ヘリウムもなんだかんだいって市場からなく ならないのはどうしてでしょうか。危機意識を煽ると得する人たちがいるのでしょうか。
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