ラドンの2面性ー温泉効果と肺癌リスク

 いまではノスタルジアを感じるラジウム温泉だが外国にもあった。カナダのブリテイッシュコロンビアにあるKootenay国立公園の中にあるラジウム温泉である。Kootenay国立公園はヨセミテ渓谷を思わせる湖と森が連なるアウトドア派にはもってこい場所である。より有名なアルバータ州のバンフ国立公園から立ち寄れるが交通の便は良くないため、あまり知られていないが地元では人気スポットである(下の写真)。

 

 

Radium Hot Springs BC Welcome Sign

 

 ここのラジウム温泉水には放射性のラドン(Rn、原子番号86)が含まれる。今の世代にはピンと来ないかも知れない。ラドン温泉とは一体、何なのか。ラドンは、α、β壊変する際の放射線が、(低線量であれば)代謝を促し血行を良くするため、健康に良いといわれて流行した(注)が、近頃ではあまり聞かれなくなった。

(注)ラドン温泉であるためには温泉水のラドン線量が111Bq/kg以上となっている。

 低線量被曝が生体に良い(正の)効果があるとする学説を放射線ホルミシスという。ラドンは喫煙に次ぐ肺癌のリスク要因とされている。下の図はバックグラウンド放射線の一般的な内訳(ドイツにおける平均値)を示したもので自然放射線の中でラドンが占める部分が大きいことがわかる。

 

Average-radiation copy

 

 ラドン起源の放射線はラドン濃度に比例するので、地域によって異なるラドン濃度と肺癌リスクの関係が調べられており、これらの関係は基本的にLNTモデルに従うとされる。従って生物にとってラドンは線量次第で健康促進と癌リスクの両方の効果を持つことになる。何故肺癌かというと空気中のラドン濃度では対外被曝よりも、吸い込んだラドンが肺に留まることによる内部被曝の方が深刻だからである。

 屋内ラドンによるリスクは線量に依存し、時間加重平均暴露値として150 Bq/m3あたり24%の肺癌リスクの増加(Bulletin of the World Health Organization 81 (10): 732.)がしばしば引用される。

 

 低線量被曝が体に良いという放射線ホルミシス(仮説)については色々な議論がある。下の例では低線量で正の放射線効果が認められる(Environ. Res. 53 (2): 193)。ただしこのデータの定量性については問題がある。ホルミシスに対する過度の期待感から、「低線量被曝は結構に良いから原発近くの住民の健康促進になる」などというプロパガンダが一人歩きすることになったが、一般的にこのテーマについての定量的なデータは圧倒的に不足している。ラドン温泉関連の情報や公式支援団体のサイトも科学的な記述に欠ける。ラドンと一般的な温泉効能を区別することも難しい問題だ。

 

Radon and Cancer by Cohen

 

 海外におけるラジウム温泉の実態について調べてみると、西欧医学圏でも積極的に取り入れた治療(人口的なラジウム浴)が行われていることがわかった。

 冷戦のさなかに米ソ両国は核兵器をひたすら量産するためにウラン鉱山を開発して多くの労働者が採掘作業に従事した。ウラン鉱山のラドンによる被曝はホルミシスの範疇に収まらずに、被曝による負の効果をもたらした。このため肺がんリスクとラドン濃度の関係が明らかになった。

例えば空間線量が2000-6000 Bq/m3のラドン濃度で長時間労働した場合、肺癌リスクが濃度に比例して増加した。実際には喫煙による肺癌リスクも相乗される(注)ので、誤差は大きいがラドン被曝が無視できないことがわかり、その後の現場では換気によって作業空間のラドン濃度は低下した。

(注)室内でのラドン濃度ではラドンによる被曝よりも喫煙の方が肺癌リスクへの寄与が高いとされる。

 ソ連では大規模なラドン治療が行われた他、ドイツやオーストリアでも年間数万人が数1000Bq/kgの治療を受けているという。結局のところラドン温泉の効用はホルミシス仮説同様に検証されたとは言い難い。Kootenay国立公園のような自然環境に囲まれて、温泉(下の写真)に入ればラドンの効果でなくとも元気になりそうではある。

 

winter-pictures-001 copy copy

 

You have no rights to post comments

スポンサーサイト

Copyright© 2013.   放射線ホライゾン rad-horizon.net   All Rights Reserved.